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「フランス人ならそんな発想は出ないよ」是枝裕和監督が『真実』で母ドヌーヴと娘ビノシュを描くまで

『こんな雨の日に 映画「真実」をめぐるいくつかのこと』

2019/09/30
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夜。ビノシュさんの自宅へ

8/24

 朝8時起床。9時にクリーニングを出し、宿泊しているホテルメゾン・ブレゲの1階のレストランで朝食。今日のオムレツは美味しかった。作っている人が変わったか? 10時半、同じ場所で今回音楽をお願いする、アレクセイ・アイギさんと打ち合わせ。少女が動物園に迷い込んだような賑やかな感じを出したい。あの空間が祝福されるような曲を、と話す。

 今日は20時半からジュリエット・ビノシュさんと打ち合わせ。そこへ向けて午後ハネケの『隠された記憶』とキェシロフスキの『トリコロール/青の愛』を観なおす。

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ジュリエット・ビノシュ photo L. Champoussin ©3B-分福-Mi Movies-FR3

 夜。ビノシュさんの自宅へ。

『青の愛』の時は音楽はクランクインの前にすべて出来ていた。撮影現場でその音楽を流し、聴きながら演じ、撮った。プールで泳いで、水中から上半身を出す瞬間に頭の中で音楽が鳴るが、あそこもそうか?と聞いたら「そうだ」と。作曲家としての楽譜の持ち方や、音符を目で追う動作とか姿勢はどういった役作りをしたのか?

「サントラを作ってくれた作曲家のところへ行って取材をした」

 彼女が抱えている哀しみについては?

「哀しみは考えない。喪失感をここ(胸)に抱える感じ。それは2年前に夫を亡くした女性に脚本を読んでもらった」

 ラストシーン。音楽を聴きながら一筋の涙を流す。その後少し微笑むが、脚本には何て書いてあったか覚えているか?

「このシーンは唯一泣くことを許可された」

「笑っているテイクも撮ってほしいというのは、私から提案した」

「その時の役の感情と自分の感情がつながっていれば泣ける……」「役者は役をいろんな側面から分析することが必要」「メソッドも時と場合によっては有効なアプローチの方法だと思う」

「リュミールという人間は人間としてふところで何を必要(need)としているか?」

「それは愛なのか? 富なのか? 本音、建前、環境……何が物語を進めていくのかを考える」

photo L. Champoussin ©3B-分福-Mi Movies-FR3

 その人間が表面的に何を求めていて(want)、実際は何が必要(need)か、この2つを分けて考えることが演じるうえではとても重要になるという。これは演出するうえでもとても役立つ考え方だ。