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「このタイミングのオファーは断りにくいなぁ……」
2018/5/21
約束の時間より少し遅れてイーサン・ホークはレストランにやって来た。立ち上がって握手をする。
「子ども達に晩ご飯を食べさせて寝かせてから来たので少し遅れてしまってごめんなさい。それとコングラチュレーション。このタイミングのオファーは断りにくいなぁ……」
この時、ずっと現実感の無かったパルムドールという賞の重みみたいなものを初めて感じた。
イーサンは晩ご飯はすませてきたということで、オイスターを少しとウィスキーを飲みながら、『ビフォア』シリーズや『6才のボクが、大人になるまで。』の撮影時の話など、楽しそうにしてくれた。まだ出演を正式に受けてはいないのだが、秋にひとつ友人の監督の小さな映画の撮影があり、12月には舞台の仕事が決まっている。友人の映画を舞台の後に時期をずらせるかどうか聞いてみよう、と「前向きな」返事を引き出すことには成功した。イーサンの携帯が鳴る。「どうやら子どもが目を覚まして眠れないと言っているから帰るね」そう言い残して彼はお店を出ていった。素敵な夜だった。
数日後、正式に出演の承諾の連絡がパリに届けられた。これで作品の「世界」から一気に霧が晴れた。