「母親になるために必要なこと」
――さっき、最初は役を受けるかどうか迷われたということだと思うんですけど、母親役にはすんなり入れましたか。
貫地谷 うーん。やっぱり今でも入れたのかもわからないし。でも毎日ほんとに辛かったですね、撮影している時は。毎日心が波立っていました。
――集中して撮影されたんですか。
貫地谷 2週間くらいだったので、撮影期間自体も。なのでもうほんとにギュッと。毎日気持ちもギューッとなって撮影していましたね。
――『夕陽のあと』は鹿児島の北西にある、美しい島、長島が舞台ですよね。海がきれいでのどかな雰囲気でしたが、東京からはどうやってアクセスするんですか。
貫地谷 飛行機と車です。映画の最後に橋を渡るシーンがあるんですけど。まさにあそこが島と九州本島とのつながりのところで。
――あれは、本当に胸が締め付けられるようなラストシーンでした。そんな家族がテーマの『夕陽のあと』ですが、過去のインタビューで35歳までに家庭を作りたいという貫地谷さんの願望を見ました。結婚や子どものことをこの映画を機に考えたりしましたか。
貫地谷 20代の頃はすごく明確に理想があったんですけど(笑)。ことごとく夢がやぶれていき、計画は立てない方がいいんだなと最近思っています。
――『週刊文春』のグラビアページ『原色美女図鑑』に2、3年ごとに出ていただいて、インタビューのたびに……。
貫地谷 聞かれるんですよね、結婚願望を(笑)。
――『夕陽のあと』の子役・豊和(とわ)くんがすごくかわいらしかったですが、子どもを持つことを想像したりしましたか。
貫地谷 この作品をやらせていただいて思ったのが「なにをもって母親なのか」。それはやっぱり「責任」なんじゃないかなと思って。責任を感じたら、責任を自分で持てたらお母さんになるのかなと。それってすごいことなので。一概に、すぐ欲しいですとか、そういうのはないですけど。やっぱり人を産んで育てるというのはすごいことだと、自覚を持たないといけないと。
――家族というと、『なつぞら』で草刈正雄(柴田泰樹役)さんの「北海道では開拓者みんなが家族だった」というセリフがありました。『夕陽のあと』でもロケ地・鹿児島長島では「島のみんなで子どもを育てる」という空気を感じました。
貫地谷 やっぱりこういうところって結束が固い。でも本来こういう風であって欲しい理想郷でもあって。今は、隣の人がどういう人かわからないから挨拶もしないっていう風になっていることもあると思うんですけど、やっぱり地域でそういう風になれたらもっと安心して子育てできる環境ができるんじゃないかなと思いますね。だから撮影のとき、島の空気はすごくいいなと憧れていました。
写真=三宅史郎/文藝春秋
INFORMATION
監督:越川道夫
出演:貫地谷しほり 山田真歩/永井大 川口覚 松原豊和/木内みどり
11月8日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
©2019長島大陸映画実行委員会
あらすじ:
1年前に長島町にやってきた茜(貫地谷しほり)は、食堂ではつらつと働きながら、地域の子どもたちの成長を見守り続けている。一方、夫とともに島の名産物・ブリの養殖業を営む五月(山田真歩)は、赤ん坊の頃から育ててきた7歳の里子・豊和(松原豊和)との特別養子縁組申請を控え、“本当の母親”となる期待に胸を膨らませていた。ある日、行方不明だった豊和の生みの親の所在が判明し、7年前に東京のネットカフェで起きた乳児置き去り事件が浮かび上がる。