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スクラムで奪い取ったペナルティを反撃の糸口に

 具の理想が結実したのが、6対12のアイルランドリードで迎えた前半35分のスクラムではなかったか。自陣22メートルで相手ボールスクラムのピンチ。今振り返ると、勝負を左右する重要な局面だった。

 レフリーの合図でスクラムが組まれる。アイルランドのプレッシャーに日本が一塊になって耐える。いや、耐えるだけでなく、逆に押し返した。日本のプレッシャーに、アイルランドスクラムは分断される。日本代表はスクラムで奪い取ったペナルティを反撃の糸口とした。

前半、スクラムを組む具智元(中央)ら日本代表の選手たち ©共同通信社

 その後、ペナルティキックで9対12として前半を折り返した日本代表は、後半18分に逆転のトライを決めると、さらにペナルティキックでアイルランドを突き放し、19対12で下した。前回W杯の南アフリカ戦を彷彿とさせるジャイアントキリングに日本中がわいた。

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高校時代からの目標だった「日本代表」

 4年前、拓殖大学3年生だった具は、まだ日本代表に招集されていない。彼は南アフリカ戦の勝利を知り、驚きや喜びと同時に別の思いがよぎって、緊張したと振り返る。「これから日本代表はレベルがもっと上がるはず。自分も早くこのレベルに達する選手にならなければ」と。

 ラグビー日本代表は若い海外出身選手たちにとっても、憧れの存在となったのである。

9月7日、記者会見での具選手 ©AFLO

 韓国出身の具は、アジア最強のプロップと呼ばれた元韓国代表の具東春を父に持つ。息子たちにいい環境でラグビーをさせてあげたいと考えていた父の意向で、ニュージーランド留学を経て、中学時代に日本に移り住む。

 ラグビーは3年継続して居住などの条件を満たせば、国籍の異なる国の代表としてプレーできる。

 前回W杯の躍進は、具にとって高校時代からの目標だった日本代表への憧れをさらに募らせた。

 国際ラグビーの統轄組織であるワールドラグビーは、ラグビーが持つ価値を守るために、「品位」「情熱」「結束」「規律」「尊重」の5つの理念からなるラグビー憲章を掲げている。

 アイルランドからペナルティを奪ったスクラムに「結束」を見た。