ラグビーW杯、世界ランク9位の日本代表が世界ランク2位のアイルランドに19‐12で大逆転勝ち。初のベスト8入りへ大きく前進した。

 思い出されるのは「スポーツ史上最大の番狂わせ」と言われた4年前のW杯での南ア戦「ブライトンの奇跡」だ。では今回のアイルランドへの勝利と価値が大きいのはどちらなのだろうか?

 1991年の第2回大会からラグビーW杯を取材。前回大会の南ア戦も現地で取材していたジャーナリストの村上晃一氏に聞いた。

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 構成=文春オンライン編集部

日本としてはW杯初の開幕2連勝となった ©JMPA

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ラグビー史から考えると「アイルランド」よりも……

――アイルランド戦は現地・静岡で?

「J-SPORTSでピッチサイドレポーターを担当していました。4万7000人のスタジアムの雰囲気はすごかったですね、日本ではこれまで感じたことがない盛り上がりで。ずっと歓声が頭から降り注いできた。あれはアイルランドには相当プレッシャーだったと思います」

――世界ランク2位のアイルランドに大金星でした。

「日本代表の素晴らしい逆転勝利でした。ラグビー界でも大きな『驚き』がありました。ただラグビー史から考えると、4年前の南アフリカ(南ア)への勝利の方がすごいんです。南アとニュージーランド(NZ)というのはラグビー界の2トップ、“東西の横綱”と言っていいでしょう。過去8度のW杯でNZは3度優勝、南アは2度優勝しています。

 その2カ国に唯一対抗してきたのがオーストラリアとイングランドで、他の国はなかなか勝てなかったんです。それを覆したので、前回の日本の勝利は真の『大番狂わせ』で世界中のニュースになったんです」

4万7000人超の観客が静岡エコパスタジアムに詰め掛けた ©JMPA

――そもそもラグビーは「番狂わせの少ないスポーツ」とよく言われますね。

「まずラグビーは半分格闘技なので、力の差がはっきり結果に出るんです。例えば相撲で前頭が横綱に勝つということはあまりないですよね。しかもラグビーは、野球のように表裏3アウトで平等に攻撃権を与えられる、ということがありません。だから流れのなかでボールを奪えないと強いチームに80分間攻められっぱなしということも起こり得るんです」

――過去10度の対戦で日本はアイルランドに一度も勝てていませんでした。

「ただ前回の南ア戦勝利で、一気に日本の格が上がったんです。だからこの4年間で、世界のティア1(※)と呼ばれる10カ国全てとテストマッチを行なえた。それは試合を組んでもらえるくらい認められたということなんです。

 そして実際にフランスと引き分けたり、ウェールズと3点差までいったり、イングランドに後半20分までリードしたり……と接戦を繰り広げてきたので、今回、アイルランドも相当警戒していたんです」

前半13分、アイルランド・リングローズが先制トライ ©JMPA

※ティア(Tier)1 …ラグビー界の「階級」。欧州6カ国(イングランド、アイルランド、ウェールズ、スコットランド、フランス、イタリア)と南半球4か国(NZ、オーストラリア、南ア、アルゼンチン)。日本は中堅国にあたるティア2。