「グーくん! グーくん!」

 かつて最前列でスクラムを組んでいたであろう、ビヤ樽のような体格の初老男性が泣きながら叫んでいる。

 巨大スクリーンには、いままさにスクラムを組まんとする日本代表の3番具智元が映し出されていた。

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 9月28日夕方、埼玉県熊谷市のコミュニティひろばには、たくさんのラグビーファンが詰めかけていた。

 W杯開幕時点で世界ランキング1位のアイルランドと日本代表の一戦。ポイントの1つが、世界屈指とも称されるアイルランドのスクラムに、日本がどう対処するか。その意味でも、プロップの具に注目していた。

アイルランド戦の後半、突進する日本代表の具智元選手(右から2人目) ©時事通信社

身体の小さい日本代表が、どうやって相手のスクラムを分断するか

 支柱を意味するプロップは、その言葉通りスクラムを支える柱となるポジションだ。

 具のサイズは183センチ、122キロ。太い眉毛が印象的で素朴な雰囲気の青年である。彼はかつておっとりした語り口で「ぼくは、独走トライよりも、スクラムを押し込んで相手からボールを奪うことに快感を覚えるんですよね」と語ってくれた。

「海外のスクラムは個々のパワーにまかせてバラバラに押してくる。身体が小さい日本代表がパワーに対抗するには、スクラムを組む8人が結束するしかない。1つの塊になって、全員の意志と力を1点に集中させて、相手のスクラムを分断していく。そんなイメージのスクラムが理想です」