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「中途半端な仕組み」が奏功したトップリーグ

 背景にあるのは上位チームならば年間10~15億円程度という潤沢な予算だ。ただしトップリーグは「プロリーグ」と違い、試合の興行権も協会サイドが持っている。各クラブは地元に誘致しない限りチケット販売、試合開催の責任を負わない。

 選手やスタッフの多くはプロだが、クラブ運営は企業にとって福利厚生の一環だ。チケット販売、スポンサーセールスなどの専任スタッフが不要なため、予算の大半を現場の強化に割ける。

 この仕組みがサステナブルかどうかは疑問で、ラグビー協会は今まさにプロ化の動きを進めている。W杯で認知度が上がり、スポーツビジネスの専門家も増えている今、改革の機は熟したと言えよう。

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©JMPA

 しかしバブル崩壊後の困難な過渡期は「中途半端な仕組み」でなければ乗り越えられなかった。大企業ほど社内の手続きコストは大きく、新法人の立ち上げ、定款の書き換えといった面倒を嫌う。また興行で幾ばくかの収入を得ても、費目をどうするか? 決算にどう計上するか?といった調整は難事だ。

 加えて当時はプロ野球さえソフトバンクや楽天が参入する前の低迷期。親会社の支援以外でスポーツで「稼ぐ」人間はほとんどいなかった。そんな時代にガチガチのアマチュアだったラグビー界が一気にプロへ切り替えても、無理に決まっている。

 ラグビー界は実業団の仕組みに、程よくプロフェッショナルな要素を乗せて成功した。実務上の手間を可能な限り取り除きつつ、ハードルは上げ、密度を高めた。東日本、関西、西日本に三分されている実業団リーグの上部カテゴリーとして、2003年に新リーグがスタートした。

故・宿澤広朗氏の功績

宿澤広朗氏 ©文藝春秋

 制度設計を担った人物が2006年に亡くなった故・宿澤広朗氏だ。彼はW杯で史上初勝利を上げた代表の指揮官で、三井住友銀行の頭取候補に名が挙がっていた有能な金融マンだった。

 他競技は有力実業団の多くが廃部の憂き目にあったが、ラグビーは有力チームがほぼ全て令和まで生き残った。宿澤の見事な構想は2019年のW杯開催とそこに至る日常を支えている。