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人口の99%には馴染みのない出版界を覗き見る感覚を出すようにした。

――では作家志望の南雲晶という青年についてはどうですか。

羽田 あれは別にそんなに自分は投影されていませんね。彼の場合はあまり本を読みなれていない人にとっても読みやすくなるように、ゾンビ映画のお約束を踏んでいくような人物として書きました。

――確かに彼は逃れて逃れて、逃れた先にもまだゾンビがいて…という道を辿りますね。一方、編集者の須賀という人物も出てきますね。作家に対する編集者の本音とか、文学賞のパーティでの様子などは意地悪なくらいリアルでしたね(笑)。

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羽田 やっぱり小説家である自分を批判する目線は当然必要だと思いました。自分や自分たち小説家を外から見る目線みたいなものです。この小説の前半部分は、人口の99%以上の人にしたら馴染みのない出版界の内実を覗き見ている感覚を出すようにしました。それが面白さにつながると思いましたし。

――いや本当に、これはあの人のことだろう、とか、ああ、本当にこういうことあるよね、といったことが沢山あって。また、出版界とは関係のない人物も主要人物にいます。区の福祉事務所に勤める公務員の新垣はものすごい働きを見せますね。

羽田 出版とは全然関係ない人間も出すつもりでした。それ以前から、これとは別に、生活保護の不正受給の小説を書こうとしていて資料がたくさんあったので、どうせなら日本的なメンタリティを体現する役人たちがどう立ち振る舞うかを書いて風刺になればいいなと考えました。

――この本でもゾンビに噛まれるとゾンビになる、というお約束を踏んでいますが、噛まれてしまったのになかなか変化の兆しが見えない女子高生の青崎希も重要な存在ですね。

羽田 新しめのゾンビ映画でたまにそういう人物が出てきて、僕はそういう人物が出てくると冷めるんです。でも、どういう人がゾンビになって、どういう人がゾンビにならないのか、最後にいきなり答え合わせをするのではなく、中盤から彼女を登場させて、なんとなく理由が分かるようにしたほうがいいと思っていました。

 

――小説全体の作りとしては、前半は出版社のあるある話をつめこみつつ、主要人物たちのプロフィールやそれぞれの状況を明確にさせ、後半は北海道、冨士霊園、隔離地域という3か所での話がスピーディに進み盛り上がっていく。

羽田 だんだんフィクションの濃度を上げていくことは意識しました。最初はわりとリアルな状況で、そこにトンデモ設定をどんどんつけていきました。それと、海外ドラマの「ロスト」のイメージもありましたね。無人島に行ったらなぜか地下室があったりする、あの感じです(笑)。北海道はバイクツーリングでよく行っていましたが、冨士霊園は電車で取材に行きました。小説家の墓がたくさんある場所がいいなと思ったんです。

――ちなみに噛まれるとゾンビになる、というお約束をあえて出している点もそうですが、タイトルもまさにお約束ですよね。作中でもKが「なんにでも『~オブ・ザ・デッド』の冠をつけ商品として流通させ実際にそれらが受け入れられてしまうという従順性もある一方で…」と語る場面があります。批判性を感じますが。

羽田 そうですね。やるならそうやって自覚的に謙虚にやろうよ、という感じです。まあ小説を書いている時点で結構厚かましいとは思うんですけれど、自分がやっていること、やろうとしていることに対して、もっと考えてやろう、という。