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30歳で自己最速を更新 広島・中村恭平はなぜ156キロを出せたのか

文春野球コラム クライマックス・シリーズ2019

2019/10/05

 タイガース怒涛の6連勝でカープのシーズンは幕を閉じた。丸佳浩のFA移籍から始まって、ブラッド・エルドレッドの引退や、長くチームを支えた、永川勝浩や赤松真人の引退もあった。V奪回へ、戦力の立て直しは急務である。しかし、新戦力や外国人選手の獲得ばかりが補強ではない。チームのポテンシャルは、個々の選手の中にこそ眠っている。それは、きれいごとや精神論ではない。科学を知り尽くした男が、心から考えていることである。

 著書累計70万部、ジャイロボールやシンクロ打法など、科学的な見地に基づいて選手をサポートするパフォーマンスコーディネーターの手塚一志さんの話に耳を傾けたい。黒田博樹氏や新井貴浩氏のサポートから始まり、現在はオフを中心にカープ選手13名をバックアップ。そのメンバーの熱く純粋な人柄に惹かれ、広島へも工房を新規に展開した男の、科学的でハートフルな「カープ論」である。

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 僕は、個々の選手がパフォーマンスを向上させることが、チーム力につながっていくという考えです。今年は13名のカープの選手をサポートさせていただいて、飛躍的に進化した選手もいます。

 例えば、中村恭平投手です。昨シーズンは球速も140キロ台と苦しんでいましたが、今年、30歳にして自己最速を更新です。これまでは153キロがMAXだったのが、ついに156キロをマークしました。ここにヒントがあると思います。

9年目のシーズン、43試合に登板してリリーフ陣を支えた中村恭平 ©時事通信社

約400の筋肉をいかにして操るか

 野球選手である彼らは、我々が思っているよりスーパーマンなのです。彼らは選ばれし者です。そもそもが、力でねじ伏せて他を圧倒してきました。ただ、スーパーマンであるがゆえに、理に適った体の操り方が抜け落ちていることがあります。

 プロ野球に入れば、上には上がいる。即戦力のはずが、力で相手をねじ伏せられず、迷いが生じるようになっていくのです。身のこなし、体の操り方、これらを見詰めなおすことのないまま、勝ち続けた人たちであるだけに、逆サイクルに陥ると、パフォーマンスを大きく落としてしまうのです。

 中村投手は、体の操り方を見直すことで、156キロの球を投げられるようになり、43試合に登板、まさにチームのために機能しました。このように、スーパーマンである彼らが体の操り方に目覚めることで、1人、また1人と戦力となっていく。こうなっていくと、2020年は、再び、しっかり戦えるはずだと思います。主力が移籍や引退で抜けても、「第2の中村恭平」がいるはずです。

 ちょっとしたポイントです。力むことと、ボールに力を伝えることは、似ているようで、真逆。力を入れないと156キロはでませんが、力んでしまうと、むしろ逆効果になってしまいます。人間の体には約400もの筋肉があります。それを、可能な限り緩めながら、一瞬に集めることができるか。これができれば156キロなのです。

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