自分から必要と感じたとき、初めて人の行動は本質的になる
大学や社会人から入団した新人は、必ずと言っていいほど「即戦力」と言われる。しかし、この言葉を安易に使う者は、表現者として稚拙だ。
アマとプロでは年間スケジュールがあまりに異なり、ルーキーはまず、プロで長いペナントレースを戦い抜く力を身につけなければならない。海千山千のそろうプロでやっていくには、技術を揺るぎないものにする必要もある。
日本のプロ野球ではメディアも首脳陣も「即戦力」という言葉をあまりに安易に使い、若者たちのポテンシャルを浪費していないだろうか。アマチュア球界の指導力がそれだけ高い裏返しかもしれないが、アマが育んだ才能を、プロ野球は十分に伸ばし切れていないように感じる。
十亀剣はその名のごとく、プロ入りから亀のように歩んできた。決して速くないが、ゆっくりと一歩ずつ、自身で考えながら成長してきた。
JR東日本で数々の選手をプロに送り込んできた堀井哲也監督は十亀に対し、同じ日大出身で似たフォームで投げる館山昌平を神宮球場に観に行き、勉強してこいと話したことがある。だが、十亀は行かなかった。社会人時代は必要ないと思ったのだろう。しかしプロに入り、館山と自主トレを一緒に行うようになった。自分から必要と感じたとき、初めて人の行動は本質的になるのだ。
「僕はニールからいい影響を受けています。あとはチームの他のピッチャーがどう思っているかですね。あのベルト、他にも使ったほうがいいヤツがいるんですよ。でも、こっちからゴリ押しするのは意味がない。僕みたいに、やりたいと思ったら聞きにくると思うんですよ。だから、何も言わないですけどね」
ベテラン投手がFAで毎年のように退団してきた西武の弊害につい
十亀に6月末、FAについてストレートに聞いたことがある。
「FA権をとるって、一軍に7年いたということですよね。プロ野球選手としてやってこられた証だと感じられたのが、一番大きいです。結構な充実感とともに、(8年目での取得になって)何やっているんだろうな感もありますけどね。これからどうしていくかはわかりませんけど、まだ」
あくまで6月末の話だ。変わりやすいのは秋の空と女心だけでなく、男心も同じである。現在、十亀がどう思っているかはわからない。
一つ言えるなら、複数年契約について話題が及んだ。
「(複数年契約をしてくれるなら)うれしいですよ。今後それだけやってくれると、評価してくれるわけですから」
十亀にとって今季ラスト登板になるかもしれない、CSでの大一番がまもなく始まる。果たして、十亀くじはアタリか、ハズレか──。
ゆっくりと成長の歩みを進めてきた十亀剣、31歳。チームと自身にとって、極めて重要なマウンドに登る。
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