清宮選手はいつも笑顔で前向きで「きちん」としていた
話は戻って2017年。ドラフト後に、札幌での新人選手揃っての入団会見は観光名所でもある大倉山ジャンプ競技場で行われた。冬になるとスキージャンプの大会が行われる大倉山、ジャンプ台を見上げる建物の窓の大きな部屋がお披露目の場所。私は始まる直前に会見場の外でラジオのレポートがあったために、中に入るのが遅れた。そのおかげで、と言っては何だけれど、扉の外で入場スタンバイする7人の新入団選手の横を通ることになる。
選手たちは全員でひとつの輪になってとっても楽しそうに話をしていた。年齢も、出身地も、ドラフト順位も、そして知名度さえも何も関係なく、新しい世界へ飛び込む同志として笑いあっている姿は夢を叶えた野球少年そのものだった。邪魔をしないようにと、こっそり横を通ろうとしたけど失敗。私に気づいた彼らは、なんと一人ひとり大きな声で「こんにちは!」「こんにちは!」「こんにちは!」「こんにちは!」「こんにちは!」「こんにちは!」「こんにちは!」と歯切れよく声をかけてくれた。「は、は、はい! こんにちは!」とびっくりしながらつられる私。その時の清宮選手を含めた7人の清々しい表情は私の宝物だ。
あれからいろんなことがあったけれど、清宮選手はいつも笑顔で前向きで「きちん」としていた。入団会見のあの扉の前からずっと変わらなかった。それは決して作られたものではなく、自然とふるまう彼の姿そのものに感じられた。だけど、本当に余計なことなのだけれど、どこかで感情を押し殺していなければいいなと思っていた。悔しさも苛立たしさも押し込めているような気がしていた。この手のものを抑えるのは無意識であればあるほど体に悪いし、心にもよくないと聞く。本当に勝手に心配していた。だから7月31日のあの顔を見た時、私は本当に勝手に何だか解放されたような気がして、もっと言えば本当に勝手に、嬉しかったのだ。
そしてシーズンが終わった9月27日、マスコミの取材に答えた清宮選手が痛快だった。「今年一番収穫になったのは?」との質問に、「33打席ノーヒットだったことですかね」。「自分をほめてもいいなと思うことは?」「ないっす、ないっす、ないっす!」。選ぶ言葉ももちろんあるけれど、ポンっと出る言葉に2年目を終えて整理された気持ちが表れていた。打てなくても覚悟を決めて1軍で使い続けた監督、期待になかなか応えられない自分。悔しさ、周りからの風、声、そして優しさも、その全部を受けとめて太くなっている彼を感じた。
手術は10月17日、今年のドラフトの日だ。あれから2年、今度はいまある心配事を取り払って、また新しい自分を切り開く。札幌ドームに登場曲のスター・ウォーズが鳴り響くその瞬間を待ちわびながら、私たちも清宮選手に負けない準備をしよう。
「野球のオフは休むって意味じゃないんだよ!」
シーズン終了後のインタビューの時に必ず出る栗山監督のフレーズがどこからか聞こえてくる気がする。
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