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 警官がもごもごと質問する。保守派側のデモに向かっていた初老の男性が、「検察改革だー!」、そう声を上げると、警官は慌てて、「あっ、じゃあ、そちらではなくて、こちらです、こちらですから」と急いで進歩派側に誘導した。

 警官は両者のデモの入り口あたり、合わせて8車線の車道を横切るように一列に並んで、保守派、進歩派側へと向かう参加者の“交通整理”を行っていた。その光景はまさしく「南南葛藤(南北ではなく、韓国内でのイデオロギー対立)」の一コマだった。

 保守派は進歩派より1時間早くデモを開始すると予告していたが、その時間でも進歩派の参加者の数は圧倒的だった。これは中に入れなくなるかもしれないと思い、まず、進歩派側の歩道を突き進んだ。

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9月28日の進歩派デモ(著者提供)
9月28日の進歩派デモ(著者提供)

 

 開始時間の1時間前だというのに人、人、人。途中、顔見知り同士が挨拶したり、握手したりで流れが止まる。歩道側の狭い空間では、「曺国 守護」と書かれたポスターを手に、小さなラッパをパラッパ、パラッパと吹きながら、シュプレヒコールを挙げている団体もいた。

 進みながら、団体には所属していなそうに見える一人で来ていた人に話しかけた。

「検察改革は行われないといけないのです。政治検察はもう要らない。公捜処が必要なんです。それができるのは曺国法相。彼しか信じられる人はいない」(60代、男性、ソルウ在住)、「盧武鉉(元)大統領の時も曺国法相の今の疑惑についても検察はやり過ぎです。今、権力を削がないと、検察を改革しないと韓国は幸せになれない」(50代、女性、江原道在住)、「曺国のことは分からないですけど、検察改革は必要なんです」(40代、夫婦、ソウル在住)などの応えが返ってくる。ちなみに、公捜処とは「高位公職者非理(不正)捜査処」の略で、国会議員や官僚、判事や検事などの高位公職者の不正を捜査する部署のことだ。

 そのままずんずん前に進んでいくと、突然、視界が開けて、思わず、あっと声が漏れた。

 車道の真ん中に小さな舞台が設置されていて、その向こう側、上り坂一帯は豆粒のような人でびっしりと埋まっていた。舞台に設置されたスクリーンでは曺国法相の一連のニュースが映し出されていて、舞台からは「検察改革」「曺国 守護」を叫んでいる。

進歩派デモの日、保守派は虚脱ムード

 今度は保守派側にまわろうと、また、来た道を引き返した。進歩派側の参加者はどんどん増えていて、保守派側との衝突を阻止するため、車道の中央に並んでいた警官はあっけなく瓦解していた。それでも、人波で大法院側に押されながらも、うねった隊列をかろうじて守っている。

 なんとか瑞草駅近くまで戻り、保守派側に入り込むと、進歩派とは比べものにならないほど人が少なくて、あ然とした。虚脱ムードまで漂っていて、声を出すことに疲れて座り込んでいる人、進歩派側をただただ、じっと眺めている人もいた。

保守派陣営から見た9月28日の進歩派デモ(著者提供)

 60代後半のソウル在住という女性は、「あちらは地方からバスで人を運んでいるというんですよ。デモに慣れていますからね。人集めも上手なんです」と言い、「検察の改革についてはよくわかりませんが、夫人も逮捕(実際は在宅起訴)されて、まだ疑惑も拭えていない曺国を法相なんかにしちゃ、韓国はだめになります」と訴えながらも、進歩派の人の多さに圧倒されている気色が声ににじみ出ていた。

 しかし、10月3日、これが反転したのは冒頭のとおりだ。