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行動原理は“純粋悪”としか呼びようがないもの

 白くて“いつでも笑い顔”のメイクだが禿げかかってまだらのようになっており、口の両端にある上に向かって裂けた大きな傷が笑顔を作っている。なにかと下唇をチロチロと舐めては、ネチャネチャと音を立てる喋り方が、ひどくイラつかせると同時にいいようのない不安や恐怖も煽る。

ヒース・レジャー ©Paul Kane/getty

 そして、その行動原理は劇中でバットマンことブルース・ウェインの執事アルフレッドが「世の中には金など目じゃない悪党もいる。脅しも理屈も通じず、交渉も成り立たない。世界が燃えるのを見て喜ぶ連中です」と語る“純粋悪”としか呼びようがないもの。バットマンが正体を明かすまで市民を毎日1人ずつ殺すことを宣告してヒーローに憎悪を向けさせる扇動者ぶり、市民と囚人を乗せたフェリーそれぞれに爆弾を仕掛けてどちらかが制限時間内に起爆スイッチを押さなければ2隻とも爆破するという人の倫理観を揺るがすゲームに興じる愉快犯ぶりが、レジャー渾身の演技も相俟って観る者の胸を刳(えぐ)りまくった。だが、彼は本作公開中に睡眠薬をはじめとする処方薬の過剰摂取で逝去。加えてアカデミー賞助演男優賞を受賞したことで、彼のジョーカーが至高となり、越えられない伝説にもなった。

なにかと残念だったジャレッド・レト

 それから8年後、『スーサイド・スクワッド』(16)でジョーカーを演じたのがジャレッド・レト。『チャプター27』(07)で約30キロの体重増量を経てジョン・レノン射殺犯デヴィッド・チャップマン役に臨み、『ダラス・バイヤーズクラブ』(13)では13キロ減量してHIV患者のトランスジェンダーを熱演してアカデミー賞助演男優賞に輝いた演技派である。ストイックな役作りで知られる彼だけに、どんなジョーカー像を見せるのか?

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 期待を膨らましたが、さすがにヒース・レジャーの後では分が悪かった。蛍光掛かった緑色の髪、総銀歯、タトゥーが彫られた引き締まった肉体、ギャングスタ的ラグジュアリーな意匠をあしらった小道具には魅せられたし、精神病棟の入院患者たちと対面したり、どんな笑い声が人々を不快にさせるか街なかで大笑いしたりと役作りにも打ち込んだとも聞かされたが、どうしても想定外のジョーカーだったとは言えなかった。これには出演シーンも大幅にカットされた背景もあったが、彼よりもマーゴット・ロビー演じたイカれた恋人ハーレイ・クインのほうが目立ってしまったのがとにかく痛かった。レト版ジョーカーのスピンオフも企画されたが頓挫し、ハーレイ・クインを主人公にした『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey』(日本では2020年3月20日に公開予定)が製作されたのが、その“評価”となっていると考えていいだろう。