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映画『ジョーカー』までの30年 ホアキン・フェニックスと歴代ジョーカー3人の“決定的な違い”

なぜ演技派俳優はジョーカーを演じるのか?

2019/10/10
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アカデミー賞の常連が白塗りになった衝撃 ジャック・ニコルソン

 ジョーカー=演技派の流れを作ったオリジンは、『バットマン』(89)のジャック・ニコルソン。すでに『スーパーマン』(78)でマーロン・ブランドがスーパーマンの父・ジョー=エル、ジーン・ハックマンが宿敵レックス・ルーサーを演じ、アカデミー賞受賞経験の大物がアメコミ・ムービーに出演する事例があったがジョーは白髪の老紳士、レックスもハックマンまんまのルックスで演技派のイメージ・ダウンはさほどない役柄。

 だが、ジョーカーは素顔など見せないうえに、メイクは日本ならば“志村けんのバカ殿様”的扱いにされてしまう危うさを孕んだ代物である。受賞もノミネートも含めてアカデミー賞の常連であるニコルソンが演じていい役なのか、そもそもミスキャストではないのかと危惧する声も多かったが、絶賛をもって迎えられた。60年代のテレビシリーズと劇場版『バットマン/オリジナル・ムービー』(66)でシーザー・ロメロが演じたジョーカーはあくまでコミカルなキャラだったが、ニコルソンはひたすら狂気性と邪悪性を抽出して前面に押し出した。どこか滑稽であるが、それは狂気の裏返しになっているのだ。

ジャック・ニコルソン ©Murray Close/getty

 さらに、ただでさえ強烈な彼の顔に施された白くて“いつでも笑い顔”のメイクもそれに拍車を掛けた。同作がダークなテイストになったのはコミック版『バットマン』のなかでも殺伐を極めた『バットマン:ダークナイト・リターンズ』を参考にしていたこともあったが、ニコルソンの貢献度も大きかったはず。ちなみに彼は出演料のほかに興行収入と関連商品の売上からも一定額を受け取る契約も交わしており、自身が出演していないシリーズ他作でも莫大な利益を得ることになった。そんな抜け目のなさも、ジョーカーを演じるに相応しかった。

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とことん観る者を震撼させたヒース・レジャー

 アメコミ・ムービーのヴィランに扮しても渾身の演技を見せたニコルソンとバットマンに倒されても彼よりも観客たちの心に残るジョーカーの存在は、俳優たちの概念を大きく変えると同時にひとつの指標にもなった。それから19年後、『ダークナイト』(08)でジョーカーに挑んだのがヒース・レジャーだ。演じるからにはニコルソン版とは違ったものにしなければならないと、彼はモーテルに2カ月(ホテルに1カ月説もあり)も籠もって役作りを敢行。そうしてスクリーンに現れたのは、狂気のみならず生理的な嫌悪感や不快感を抱かずにいられないジョーカーだった。