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「米国と英国は信頼を失った。日本はどうする?」『帳簿の世界史』著者が語る“JAPAN”の生き残り術

ジェイコブ・ソール独占インタビュー #1

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「信頼の喪失」が今の時代を形作っている

 こうした時代の中で、『帳簿の世界史』をもって捉えなおしてほしいのは、「信頼」が如何に重要なものなのかということです。トランプという人物が米国で大統領になったこと。これは、人々の国に対する信頼がガタ落ちしたことが引き金となりました。また、2007年の金融危機の際には不良資産救済プログラム(TARP)に基づき、政府が金融機関に資本注入をしましたが、これらの資金について透明な監査は行われていません。こうした信頼の喪失が、今の時代を形作っているのです。

 最近、私は台湾で多くの時間を過ごしていますが、そこで若者に聞くと、皆が「中国に移住して働きたい」と言います。ところが、中国の食べ物や牛乳などを口にしたいかと聞くと、手をあげる人はいません。やはり、信頼がないということは決して小さな問題ではないのです。

ドイツは「赤字」を自在にコントロール

 話題を、私のもう一つの専門である「会計」に移しましょう。「何かがおかしい」と感じ取ることは、帳簿の世界においても重要です。巨額な不正会計が明るみに出たウェスチングハウス社内では、実際は15年以上も前に、隠蔽された借金の存在が内通者を通じて知られていました。それを隠し続けてきた結果、結局ツケが回ってきたのです。

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ドイツのメルケル首相 ©AFLO

 また、ドイツなどは大きなバランス・シートを操作することによって(ドイツの貸出金利は2.5%とダントツに低い。イタリアは7.7%、フランスは5%)、「赤字」を自在にコントロールしています。こうした基本的な会計の手法を知っておくと、騙されづらくなったり、あるいは騙されたと思った時に対処ができます。

なぜニュージーランドでは金融危機が起きなかったのか?

 反対に、会計文化において特に素晴らしい国を挙げるとすれば、ニュージーランドになるでしょう。会計士という面では、英国も良いです。オーストラリア、アメリカ、イタリアも悪くないですね。しかし結局は、法律上どこまでの権限が会計士に認められているのか、というのが重要な要素です。

 ニュージーランドが世界でも有数の素晴らしい会計文化を誇っているのは、そもそも人口に対する会計事務所の数が極めて多く、様々な角度から監査を行えているからです。ニュージーランドでは金融危機が起こらなかったことを思い出してください。これは偶然ではありません。会計士や会計事務所の発言力が大きいため、政府も不適切な行動に走ることができないのです。

©文藝春秋

 他に、シンガポールも社会・会計文化ともに健全な国の一つです。また、意外かもしれませんが、金融危機後に大きな改革を行ったギリシャも、現在の政府の会計レベルと文化は世界最高水準であり、信頼も戻ってきています。