AI、ブロックチェーン、IoTなど、私たちの世界は日毎に高度なテクノロジーによって形作られていっている。『帳簿の世界史』著者のジェイコブ・ソール氏(南カリフォルニア大学教授)は、そんな現状をどう見ているのか。また、会計の世界は新たなテクノロジーによってどのように変わっていくのか。歴史家が考える“未来”について尋ねると、ソール氏から意外な答えが返ってきた。(全2回の2回目/#1より続く)
(取材・構成=近藤奈香)
◆ ◆ ◆
テクノロジー化の波は、会計の世界にも確実に押し寄せています。近いうちに、会計の基本的なことはコンピューターやAIによって行えるようになるでしょう。また、ブロックチェーンにも大きなポテンシャルがあるはずです。これは自己監査力を高めるにはもってこいの技術だからです。
しかし、会計というのは科学ではなく、芸術に近いものです。たとえばレクサス車のバリュエーションを考えるとき、正確な数字をはじき出すためには会計知識だけでは足りません。10年保証がついているレクサスを買ったとしても、7年後に世界が電気自動車社会へと完全に移行してしまったらどうなるのでしょうか。また、二酸化炭素の排出規制が変化したらどうなるのでしょうか。
こうした状況に対応するため、会計士には、実は深い教養が備わっていなければならないのです。
会計士に必要なのは「数字からストーリーを紡ぎ出す能力」
例えば日産の問題について、テレビで「カリスマ会計士」が分かりやすく、何が問題になっているのかを説明してくれたら、かなりの視聴率が取れるはずです。本来、会計士が解説できる情報には高いニーズがあるのです。
しかし、私が出会ってきた会計士たちは、語り部の素質を持ち合わせていないことがほとんどでした。数字からストーリーを紡ぎ出す能力、あるいは教育がなされていないのです。