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「自由市場」をテーマにした初の人類史に挑戦

 現在、私は自由市場をテーマに、新たな本を書いています。これまで「自由市場」という概念を追って、人類史を書いた人はいませんでした。シュンペーターが多少試みたようですが、彼は歴史家ではありませんでした。一方、私は歴史家として、大きなストーリーがそこにあることを見出したのです。

 自由市場を語る人のほとんどは、自由市場とは一体何なのか、そもそも自由市場などというものが存在するのかどうか、本当には理解していません。では、自由市場という概念はどこから出てきて、一体何を指しているのでしょうか。

スコットランドにあるアダム・スミスの銅像 ©iStock.com

 私たちはこれまで、それが18世紀、アダム・スミスによって提唱された概念だと思ってきたのですが、歴史をひも解いていくと遥か昔のローマ時代、なかでもキケロにたどり着くことが分かりました。実はアダム・スミスはキケロ派の倫理哲学者であり、哲学者ヒュームもキケロを深く勉強していました。

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我々が求めている“自由市場”とは一体何なのか?

 そして判明したのは、自由市場というのは自由でも何でもない、ということです。それは2500年もの間、西洋の支配階級の思想と価値観に支えられてきた産物だったのです。

 そもそも裕福になるためには、「自由」である必要などありません。そのことは近年、中国(ずっと昔はフランス)など、主に国営企業によって経済を成長させてきた国の例をみても明らかです。

©︎文藝春秋

 すると、我々が求めている自由市場とは一体何のために“存在”するのか。何故、私たちはそれを求め続けてきたのか。ここに現代社会を読み解くヒントがあります。本はまだ執筆中ですが、完成したらぜひ、日本の皆さんにもお届けできたら嬉しいです。

Jacob Soll:1968年ウィスコンシン州マディソン生まれ。南カリフォルニア大学教授。歴史学と会計学を専門とし、これまでの政治歴史学者たちが見落としてきた重要な要素に注目して、近代政治や近代国家の起源を探る研究を行なう。

帳簿の世界史 (文春文庫 S 22-1)

ジェイコブ・ソール,村井 章子(翻訳)

文藝春秋

2018年4月10日 発売