香港の混乱が緊迫の度合いを増してきている。今年4月に「逃亡犯条例」の改正案が提出されたのをきっかけに、大規模なデモが続き、9月4日には林鄭月娥香港行政長官が改正案を正式に撤回すると発表。しかし、その後もデモは終息せず、「林鄭氏の辞任」「警察の暴力追及」や「拘束された仲間の釈放」「普通選挙の実施」などを求めた。

 これに対し、香港政府は「緊急状況規則条例」を半世紀ぶりに発動し、デモ参加者のマスク着用を禁じる強硬措置に動き、警察による実弾発砲まで起きた。デモ隊はこれに対決姿勢を一段と強め、予断を許さない状況だ。

香港デモは長期化 ©共同通信社

天安門事件との大きな違いとは?

 発売中の「文藝春秋」11月号では、元中国大使の宮本雄二氏、日本経済新聞編集委員の中澤克二氏、東京大学大学院総合文化研究科准教授の阿古智子氏ら3人のエキスパートが10月1日に建国70年を迎えた「中国の今後」について徹底討論を繰り広げている。白熱した議論の中で香港問題も取り上げられたが、特に強調されたのは、中国政府が容易には直接介入できない理由だ。

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中澤 北京政府はどう出るでしょうか。深圳に武装警察を集めていますが、彼らが本格的に鎮圧に乗り出すことは不可能だと思います。その大きな理由は経済への影響です。ここが1989年の天安門事件と大きく異なる点です。もし香港に踏み込めば、アメリカを中心に制裁が行なわれ、現在の貿易戦争以上の打撃を中国経済は確実に被るでしょう。当然、世界経済も大きな影響を受けます。

米中貿易戦争の行方は? ©共同通信社

宮本 ただ、不安に感じるのは、北京政府における香港の見方が変わってきたことです。97年にイギリスから香港が返還された当時は、改革開放の真っ只中で、香港に「一国二制度」を認めることで外貨獲得のため最大限、香港を利用しようとしました。

 ところが習近平政権以降のナショナリズムの高揚に伴って、「香港も中国の一部なのだから」と「一国二制度」を否定して、共産党の指導を末端まで行き渡らせるべきだという声が出てきました。しかも、上海が経済発展を果たし、証券市場としては香港を抜き、ハイテク分野に至っては深圳がずっと先を行っている中で香港の重要性が以前よりは低下しているように見えるわけです。