有楽町駅を降りればそこは銀座である。高級店が立ち並ぶ東京一の繁華街なのだから、10円20円を気にするような、ちまちました気持ちで歩いては駄目だ。銀座でいちばん高いパンを食ってやろう。銀行口座の残高も顧みない、分不相応な企画を思いついた。
検索したところ、「かわむら」というステーキ店のサンドイッチが捜査線上に浮上した。ステーキやハンバーグがはさまって8千円するそうである。この店については「1人10万円」「常連でも予約は数カ月先」など驚愕の情報がブログなどで散見された。背筋がひやりとする贅沢さだが、だからこそ突入しがいがあろうものだ。意を決してスマホを手にし、震え声で取材を申し込むと、「うちは取材はお受けしておりません」。高すぎる敷居に顔面をぶつけ、あえなく退散した。
ギャラを投げ打つ覚悟はできている
落胆する必要はない。パンおたくの私はすばらしい店を知っている。食パンを求めて毎日行列ができる店、「セントル ザ・ベーカリー」。併設のカフェにあるビフカツサンドに目ん玉が飛び出た記憶がある。この店の立ち上げのとき、私はたまたま試作の場面にまぎれこんでいた。西川隆博社長はスタッフにこうハッパをかけていた。
「いくらお金がかかってもいいから、日本一うまいビフカツサンドを作れ! 値段はあとから決めればいい」
オープンしたとき、メニューを見て仰天したものだ。ビフカツサンドは消費税込み6480円だったのだから。だが、今日という今日は食ってやる。銀座に降り立った以上、ギャラを投げ打つ覚悟はできている。
厚さ3センチの黒毛和牛がどーん
厨房で作るところを見せてもらう。これから食べる我が肉と対面。重さ150gの黒毛和牛。厚さはどーんと3センチもあるだろうか。パン粉に包まれ油の中に放たれる。激しく泡立つような高温ではない。
「やさしく火を入れていきます」
カツが油から取り出されるが、まだ完成ではない。
「休ませてからオーブンに入れます」
揚げると焼く。2段階の工程で分厚い肉にゆっくりと火を入れることで、ストレスをかけず、肉をやわらかく仕上げる効果があるのだと。
一方、食パンをトーストする。行列ができる食パン3種類のうちのひとつ「NA」(北米産小麦使用のプルマン)をポップアップ式のトースター(焼きあがると飛び出すタイプ)にセット。パンおたくの私はここに、むむーっとうならされた。主流のオーブントースターではなくあえてポップアップ式を使うのは、深い訳がありそうだ。しばらく経って、飛び出したトーストを見て、また仰天。焦げる一歩手前というぐらい濃く焼き目がついている。こんなに焼いて硬くならないのか!?
トーストにマスタードを塗り、どろどろとソースをかける。
「野菜といっしょに骨からダシをとって、はちみつや赤ワインで煮詰めています」
情熱の自家製ソースに期待は高まる。もう一枚のトーストをかぶせて完成。切り取った耳は捨てず、カップに立てて、カツサンドに添えられる。どうだ、耳さえ食べろという食パンへの圧倒的自信をそれは表していた。