線路内に入り込んで書類送検されたばかりの松本伊代が、うまい具合に今週の「阿川佐和子のこの人に会いたい」のゲスト。出演のブッキングは事件以前だったろうから、その後に旬になるひとを見ごとに引きあてた週刊文春である。

「さぞやびっくりされたでしょう」

 そういえば昨秋、松本伊代や早見優、小泉今日子ら「花の82年組」のひとりである三田寛子が阿川佐和子コーナーの収録の後、文春に「三田寛子ショック! 夫・中村橋之助 襲名目前の『禁断愛』」(2016年9月22日号)が掲載されたもんだから、それをふまえての追加対談をしたことがある。そこでは、三田寛子のほうから、阿川佐和子にこう切り出す。「さぞやびっくりされたでしょう」。これが梨園の妻の貫禄というものか。

「阿川佐和子のこの人に会いたい」での松本伊代と三田寛子 ©文藝春秋/杉山秀樹(左)、原田達夫(右)

 さて今週号の特集トップは「石原慎太郎都政『血税豪遊』全記録」。芸術家の四男が関与する事業に補助金7億円、長男・伸晃らとの会食に19万円、海外出張34回で5億円などと、景気のいい数字が誌面に躍る。

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 記事では「二〇〇三年五月二十九日夜、東京・築地の料亭『新喜楽』。石原氏はある宴席を開いていた。そして東京都から約三十四万円が新喜楽に振り込まれたのだった」を皮切りに、「リストランテ・ヒロ」「アピシウス」「瓢亭」といった、知事交際費で飲み食いを重ねた高級店の名がならんでいく。なんやら往時の「噂の眞相」に連載された田中康夫「ペログリ日記」を読んでいる気がしてくるではないか。スッチーは出てこないけれども。

石原慎太郎は芥川賞の選考委員でもあった

 ところで「新喜楽」といえば、芥川賞・直木賞の選考会場としても知られる。石原慎太郎は芥川賞の選考委員でもあった。

 芥川賞選考委員としての石原慎太郎は、田中慎弥との悶着で世をにぎわすなどした。いっぽうで00年、町田康「きれぎれ」に対して、独特の文体ゆえに異論も多いなか、石原慎太郎がこれを強く推したこともあり、新しい時代の才能は芥川賞の栄誉を得る。町田康といえば、新潮社の天皇とまで呼ばれた齋藤十一も、町田康を高く評価していた。気に入らない原稿は「貴作拝見、没」とだけ書いた手紙とともに送り返すなど、小説に厳しい齋藤十一であったが、晩年、「町田康さんの『人間の屑』という中篇小説が『新潮』に掲載された時のこと。齋藤がめずらしく『これ、読んでごらん。いいよ』と私に雑誌を差し出したのです」と遺した妻が語っている。(「諸君!」2001年7月号)

芥川賞選考委員時代の石原慎太郎 ©林朋彦/文藝春秋

 豪遊記事に話を戻すと、「公費での主な会食場所トップ5」や「主な海外出張リスト」が掲載。ミシュランガイドに載る店の東京店や、自身が「贅沢極まりないレストラン」と認めるレストランなど最高クラスの店や海外ホテルの名がならぶ。

「ラ・ラ・ランド」驚異の☆23個

 最高クラスといえば、ミシュランと同様に☆で評価の文春映画欄「Cinema Chart」に、最高クラスの映画が登場している。『ラ・ラ・ランド』である。中野翠ら評者5人中4人が満点をつけて、計☆23(最高点は☆25)を記録しているのだ。ちなみに去年の同コーナーでは『ヘイトフル・エイト』と『ハドソン川の奇跡』が年間の最高点、これらも☆23であったから、いかに高評価かが分かろうか。

「ラ・ラ・ランド」 © 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

 そういえば、後半のモノクログラビアに谷口ジローの追悼記事。谷口は『孤独のグルメ』や『「坊っちゃん」の時代』などで知られる漫画家である。そこには『孤独のグルメ』のこんなセリフのコマが載っている。

「ごちそう食って 反省してる馬鹿もなし、だ」

 まるで石原慎太郎への皮肉のようでもある。

 記事は担当編集者や平松洋子のコメントを紹介し、「日常に宿る充足感を描き続けた谷口さん。その小さな幸せは、作品のなかに息づいている」と結ぶ。いっぽう、石原慎太郎は血税で遊ぶ充足感を生きたのだろうか。

「週刊文春」2月23日号より