雅子さまの聡明さを強く感じた「会話」
陛下が雅子さまとご結婚されたあと、お二人そろって地理研のOB会に参加されたことがあります。人気者の陛下はすぐにほかの友人たちの方へ行ってしまい、私と雅子さまが残されました。そこから二人で話したのは、前年のクリスマス前に起きたペルー日本大使公邸人質事件のことでした。恐らく4月22日の事件解決直後にお会いしたので、そんな話題が出たのでしょう。
「大変な事件でしたね」
「どうにか解決してよかったですね」
そこから踏み込んだ話になったわけではありませんが、私は会話の終わりに「本当はどう思っていらっしゃいます?」とお尋ねしました。雅子さまは「本当にそう思っています」とお答えになり、微笑んでいらっしゃいました。ご成婚されたばかりなのに、いつでも公的なお立場を意識してふるまっていらっしゃるのだと、雅子さまの聡明さを強く感じました。さすがは陛下がお選びになった女性だなぁと感慨深く思ったものです。
居ても立っても居られずに送ったファックス
02年にご夫妻でニュージーランドとオーストラリアをご訪問されたときは、東宮御所でお見送りしました。愛子さまが1歳になった頃なので、「愛子さまと離れるのはお寂しいですね」と申し上げました。陛下はいつもの笑顔で出発されて、雅子さまとお二人の旅を楽しみにされているようなご様子でした。
いわゆる“人格否定発言”があったのはその1年半後のことです。テレビでその記者会見を観て、私もショックを受けました。いつも笑顔を忘れない陛下が、記者たちの前であんなに険しい表情をされていたからです。「家族を守る」という強い意志を感じました。
私は居ても立っても居られない気持ちで、陛下がご訪問されるポルトガルの日本大使館に「殿下にお渡しください」と激励の手紙をファックスでお送りしました。陛下からの返信はなかったものの、当時の大使から「たしかにお渡ししました」とご連絡がありました。
今年5月に天皇に即位され、雅子さまの元気なお姿も見られるようになり、お二人が国際親善をはじめご活躍されることを心からお祈りしています。
取材・構成=熊谷祐司
写真提供/『陛下、今日は何を話しましょう』(すばる舎)
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