文春オンライン

脱「ブラック企業」を掲げるユニクロ柳井正さんが喝破した「最悪な日本」とは

そこはかとなく感じる「お前が言うな」感の正体

2019/10/17
note

 あれを読んで「なんだと柳井」と怒る人ほど、柳井さんの発言を聞いて自らの行いや考えを冷静に反省しても損はないと思いますし、柳井さんが喝破する「日本には稼げる人はいない」という強弁に対して、「それを言い始めたら村田製作所やファナックは、ユニクロよりよほど効率よく稼いでますよね」とか「単に人件費の安いところでモノを作ってきて土地を借りて季節商品を売りさばいているだけで日本の国富や輸出にはたいして貢献していないので、ユニクロよりも東レやトヨタ、キーエンス、日本電産など素材や自動車、部品などのほうが日本にとっては稼げる重要産業なのでは」などという業界の違いを無視した素朴な疑問を柳井さんに絶対に投げてはならないと投資家としても思います。絶対にだ。

©iStock.com

公共財と言っていいぐらいの存在にまで

 ユニクロの良さはやはり手ごろな値段でそこそこ良いファッションを日常的に楽しめるという、服に興味のない一般ピープルのシビアなコスト感覚にジャストフィットした、安かろう悪かろうを超えた絶妙な線の良い品質を提供しているところにあります。やっぱ季節がくるごと寄るよね、ユニクロ。

 それでいて「ユニクロでいいや」と思いつつ、ユニクロのロゴやユニクロっぽさが前面に出たコーディネートで道を歩く気にはなれないという意味で「服には興味ないけど、安物の服を着まわしていると思われたくない俺たち私たちの心情を代弁してくれるユニクロ」の凄さであります。すべては前澤友作さんが勇退したZOZOが早々に「おまかせ定期便」をやめちゃったのが悪い。

ADVERTISEMENT

 何を隠そう、この私もユニクロで買った上下で街中をうろうろしたりしていますが、保育園のお迎えでまったく同じ緑のチェックの半そでシャツを着たパパとすれ違って「おっ、ユニクロだな」「お前もユニクロだな」というアイコンタクトが成立するぐらい一般的な存在になったのですよ、ユニクロは。凄いことですよ、これは。もはや国民服の提供母体であり、公共財と言っていいぐらいの存在にまでもっていった柳井さんの経営手腕というのは素晴らしいと思うのです。

©iStock.com

ほんとお茶目ですよね。大好きです

 翻って、そんな柳井正さんは過去にあろうことか我が慶應義塾OB(塾員)である玉塚元一さんを後継者に指名してしまい、まあいろいろ微妙なことになって玉塚さんを放逐するという「気の迷い」を見せてくれたというのは等身大の柳井正さんの懐の深さでしょう。たぶん、スポーツマンだし爽やかなのでいいかなと思っちゃったのかもしれませんが、なんだかんだで3年ぐらいで喧嘩したのか玉塚さんは辞めてってしまいました。

「日本は最悪です。稼げる人がいない」とか豪語しておきながら、後継指名にトチって社長に返り咲きとか、柳井正さんほんとお茶目ですよね。大好きです。

 その玉塚さんと言えば、どういうわけか流れ着いたローソンの経営者に抜擢されたかと思えば、その後「石油輸入で5兆円借り入れ」とかいうダイナミックなM資金に引っかかった報道が週刊新潮で大問題となり、これが理由かは知りませんがローソンを放逐されてしまうとかいう事件を起こしていました。一体何をしているんでしょう、この人は。

 もしも玉塚さんがその後もユニクロの社長に君臨していたら、いまごろ私はファッションセンターしまむらの服を着ていたことでしょう。企業人事とは恐ろしいことです。もちろん、新潮に玉塚さんの話を流したのは私ではありません。

突如退任「ローソン」玉塚会長にM資金めぐる疑惑 確約書に“資金をお受けいたします”の直筆
https://www.dailyshincho.jp/article/2017/04290800/