「イッセイミヤケ」を創業した三宅一生は、1973年パリコレに初参加し、「一枚の布」というコンセプトを発表する。それまで西洋の服は、人間の身体に添わせて立体的に作られたものだった。しかし、三宅が発表した「一枚の布」は日本の着物のように平面的な衣服から発想し、平面である布の形を生かしたまま服へと仕立て、人間の動作と共に布が軽やかに舞う美しさをデザインした。
三宅は、西洋の「身体=個性」とする価値観から「身体の動作=個性」とする衣服の価値観のシフトを起こしたとも言え、新しい解釈によってパリコレの文脈を更新する。
日本人デザイナーによる「黒の衝撃」
そして、1982年、日本人デザイナーがパリコレに最大の衝撃を起こす。川久保玲と山本耀司による「黒の衝撃」である。
華やかな色や刺繍、上質で贅沢な素材、それらを人間の身体に添わせて立体的に作られた服が、西洋における美しい服だった。だが、川久保と山本はそれを真っ向から否定する新しい美を提示する。いくつもの穴があいたボロボロの布、身体のラインを曖昧にする分量感たっぷりのシルエット、そして豊かな色彩とは対極の黒い服。この「黒い衝撃」は、西洋の価値観を根底から揺さぶり、海外メディアから川久保と山本に過激な批判が及ぶほどに、パリコレに大きな衝撃をもたらした。
モードとは単に最先端ファッションを指すだけでなく、連綿と受け継がれてきた西洋の服の概念に対して疑問を投げかける行為とも言え、日本人デザイナーはそれまでのパリコレには存在しなかった新しい解釈を発表することで、モードの歴史に名前を刻み、世界の巨人クラスに到達した。その系譜は以降の世代にも引き継がれ、現在も日本人デザイナーはパリコレで大きな存在感を放っている。
日本人デザイナーの特徴とは?
パリコレに参加しているアジア人デザイナーは日本人だけではない。とりわけ多いのが中国人デザイナーたちだ。9月開催の2020年春夏パリコレクション公式スケジュールには、ダウェイ・スン、ユマ・ワン、ヤン・リー、マーシャ・マ、ジャレル・ザンといった中国出身のデザイナーたちが参加している。
モードファッションはデザイナー固有の感性が投影されるもので、国や地域によって一括りにしてデザイナーたちの特徴を述べることは適切ではない。その一方で、ある傾向を感じることもあり、2020年春夏コレクションにおいて、日本人デザイナーと中国人デザイナーのデザインを比較した際に感じられた傾向を話してみたい。