2019年9月、2020年春夏パリコレクションが開幕した。パリコレ初日に登場した日本ブランドが鮮烈な印象を残す。今回初めて公式スケジュールで参加した「マメ」である。マメはデザイナーの黒河内真衣子が2010年に創業したブランドであり、日本国内ではモードファッションを好む女性たちの間で、早くから人気と注目を集めてきたレディースブランドだ。
マメには緻密で高度な刺繍、着物を連想する直線的シルエットといった「和」を思わすテイストがある。同時に、まるで外国人デザイナーが日本をテーマにしてデザインしたような客観性もある。今秋、マメが持つ特異な才能はさらなる進化を示した。
19世紀のパリ、その後印象派と呼ばれる芸術家のモネやゴッホは、日本の浮世絵をモチーフに新しい西洋の美を作り上げた。マメのデザインは、印象派の芸術家たちのアプローチに例えられる。ただし、パリの地で、西洋人ではなく日本人自らが日本の伝統をモチーフに新しい西洋の美を作り上げ、これまでのパリにも日本にも見られない新しいファッションをパリコレに提示したがゆえのインパクトだった。
私は服飾専門学校で服作りを勉強し、アパレル企業でレディースデザイナーとしてファッション業界で経験を積んできた。現在は2016年からスタートさせた「ファッションを読む」をコンセプトに、ファッションデザインの言語化を試みる「AFFECTUS(アフェクトゥス)」という活動を行なっている。
その経験から得た視線で、マメのインパクトを読み解いていきたい。
「パンツスーツは男性のもの」を変えた人
そもそも、デザイナーたちはなぜパリコレに参加するのか。パリコレから生まれたファッションは世界に拡散し、人々の服装を変え、時にはその服装が社会を変えてきた。その歴史がデザイナーたちの創造性を刺激し、パリコレへと導く。
たとえば、今では女性がパンツスーツを着ることは特別なことではないが、かつて女性がパンツスーツを着ることは異端だった。その常識を変えたのは女性の服装を革新し続けたフランス人デザイナー、イヴ・サンローランである。