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技巧を凝らす日本、簡素な美しさの中国

 日本人デザイナーのデザインは技巧を凝らす複雑なタイプが多い。素材・ディテール・フォルムといった服の構成要素に技術力を駆使した複雑な作りを施し、その複雑さを服全体に行き届かせ、重層的で濃度の高いシリアスなデザインになっている。代表ブランドにはコム デ ギャルソンやサカイの名があげられる。

 一方、中国人デザイナーのデザインは日本人デザイナーよりもシンプルな作りで、簡素な美しさが立ち上がっている服が多く、デザインのポイントを絞って簡潔に表現している。たとえばユマ・ワンが2020年春夏で発表したデザインは、加工が施され、プリントを用いた素材が多い。その点では高度で複雑な技巧を得意とする日本人デザイナーの特徴に近い。だが、ユマ・ワンはその素材を複雑な作りにすることなく、布のひだを生かした立体感あるシンプルなシルエットの服にデザインしている。

「マメ」は日本人デザイナーの新しい可能性を示す

 中国人デザイナーのデザインは、自身の文化が混じりながらもヨーロッパに近い印象を受ける。翻って日本人デザイナーは、スタイルは西洋を軸にしつつ高度な技術を生かした複雑で重層的なデザインを取り入れ、自身の文化とパリの伝統を一体化するバランス感覚が秀逸である。その結果生まれたデザインは、パリの伝統に則しながらもパリの伝統とは異なるデザインへと到達し、このスキルの卓越さが現在の日本人デザイナーたちがパリコレで活躍する力になっている。

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マメ(Mame Kurogouchi)2020年春夏ウィメンズコレクションより ©getty

 ただ、日本の特徴である複雑かつ重層的デザインは重々しく見える弱点もある。その弱点を美しく解決したのが、前述のマメだった。2020年春夏で披露した緑を多用する色使いは、日本に根付く四季折々の自然に対する繊細な美意識が服として具現化されたかのように、重々しさはなく美しく儚げであり、日本の伝統をパリコレの文脈に昇華させる見事な手腕であった。

 1982年の「黒の衝撃」からもうすぐ40年。日本は、日本の新しいモード=新しい疑問をパリコレに投げかける時期がきている。マメはパリだけでなく、日本にもカウンターとなるデザインを披露した。 

人間を新しい行動へ駆り立てるファッション

 ファッションは必ずしも生活に必要なものではない、娯楽要素の強い商品だ。しかし、服を着る、ただそれだけの行為が人間に新しい行動と習慣を促す。

  アップルの創業者スティーブ・ジョブズは、ハイネックのカットソーにジーンズという、いつも同じ服装でiPhoneのプレゼンを行う姿で有名だった。ファッションに費やす時間を削減し、仕事に集中する時間を増やす。そんな考え方もある。だが、それもファッションが人間の行動を変えているとは言えないだろうか。服を選ばないという選択で選ぶ服によって。 

 今あなたは、どんな暮らしを望んでいるだろうか。その暮らしにふさわしい服とはどんな服だろう。もしかしたら、今は存在しない服かもしれない。けれど、これから生まれる可能性はある。世界最高の創造性を競うパリコレから、あなたのための服が。