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中国とインドという二大経済大国のはざまにおかれる日本

 日本がアジアの二大経済大国のはざまで生きていくことになる日は近い。したがって日本にとってインドとの関係は、今後いっそう重要になるだろう。超高齢社会の日本と、若い労働力と伸び盛りの消費者に溢れるインドは、非常に相性がいいといわれる。JBIC(国際協力銀行)がまとめた調査では、日系の製造業にとって長期的に有望な海外投資先としては、インドが9年連続で首位となっている。インドは、日本経済がグローバルに展開する出口となる、重要な国なのである。そして、インドと日本が中国を挟む形でけん制できるのか、アジア太平洋の安全保障やサイバー分野での協力についても、インドとの連携は日本にとって死活問題だ。

 とはいえ、インドがタッグを組もうとしているのは日本だけなのか。手ごわいインド商人との取引は簡単ではない。日印ビジネスの可能性と課題を冷静に見極めなければならない。

 私はNHKのニューデリー支局長、解説委員として20年以上にわたりインドを取材してきた。その間に、世界経済フォーラムのインド大会でインド企業の代表から直接、経済界の情報を集めることもあれば、テロや地震の現場を取材し生死の境を彷徨(さまよ)ったこともある。インドを理解し伝えることには、専門知識と現地での体験、それにインド好きでありながらも客観的な評価力も求められる。相手は面積が大きく歴史も長い国なので骨が折れる。まだまだ謎に包まれたところも多く、相反する情報やイメージがインドをわからない国にしている。

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「巨象」はどこに向かおうとしているのか

 しかし、モディ首相の時代にインドは、以前よりわかりやすく、見えやすい国になった。インドの謎を知る入り口に立つために、昔のようにインド寺院を彷徨したり、バックパッカーになって哲学的な自分探しから始めたりする必要はもうない。普段のニュースからも、インド的な「びっくり」の来し方と向かう先が、日本にいながらにして触れられるようになってきた。いよいよ日本人の誰もがインドを知り、語る時代になってきたのだ。

 インドがまだ「遠い国」だと思っている人は、いないだろうか。

 もはや、カレーやヨガだけがインドのイメージという時代ではない。モディ首相という強力なリーダーに率いられることになったインドは、日本の将来を左右し、世界地図を塗りかえる政治経済の大国、「巨象」なのだ。それが何を考え、どこに向かおうとしているのか。誤って踏み潰されることになりはしないのか。本書では、日本に近づく巨象の、やさしく鋭い眼光の先を追うことにしたい。

(本文中、敬称略とする)