2027年には中国を抜き、世界最大の人口を有する大国となる「アジアの巨象」インド。2028年までには、経済規模で日本とドイツを追い抜き、世界3位の経済大国になるという予測もある。(メガバンクHSBCの調査)この劇的な成長を牽引するのは、2019年5月の総選挙で圧勝し、2期目のインド首相を務めることになったナレンドラ・モディ。NHK元ニューデリー支局長が読み解く『インドが変える世界地図』。
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チャイ売りから身を起こした叩き上げの政治家、69歳。
ドウモアリガトウゴザイマス。
2012年7月。白い顎髭が特徴的なインド北西部の州の政治家が、内幸町の帝国ホテルの一室に姿を現わし、たどたどしい日本語でそう挨拶した。何を考えているのか、握手をする笑顔の奥には、象のようにやさしく、かつ鋭い眼光がある。
ナレンドラ・モディ。
男が差し出す真っ赤な名刺には金色のカタカナ文字で、後にインドの首相となる人物の名前が記されていた。インド北西部グジャラート州の貧しい村で生まれ、チャイ(インド式ミルクティー)売りから身を起こした叩き上げの政治家、69歳。2014年に第18代の首相に就任し、今までにない施策で貧しい途上国だったインドを、世界を牽引する主要国に一気に作り変えている男だ。その動きを5000万人近い人々がツイッターのフォロワーとなって注目している。
1億個のトイレを作り、新幹線を走らせる計画も
モディ首相は州首相のときに、経済特区で外資を受け入れる「グジャラート・モデル」と呼ばれる方法で地方の高成長を実現し、インドの首相となった後も、強いカリスマ性と国民の支持を背景に、1億個のトイレを作ったかと思えば、突然、全土に流通していた高額紙幣を使えなくするというショック療法を行うなど、次々と斬新な政策を打ち出し、インド国内に大きな変化を作りだした。日本政府との間では、原子力協定を結び、インド西部に新幹線を走らせようとしている。
そのナレンドラ・モディが2019年5月の総選挙で圧勝し、首相に再選された。
1947年の独立以降、長きにわたって続いたガンディー一族率いる国民会議派による「貧者のための政治」は終わりを告げ、不安定な政治に明け暮れたインドにようやく強い指導者の時代が到来したのだ。モディ続投により、これまで見てきたインドとは異なる、まったく新しいインドが我々の目の前に立ち上がっている。それは何を意味するのか。