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「明日、隣の人が死ぬんじゃないか」  アニメ『海獣の子供』めぐって制作会社社員が“残業代未払い“で提訴

「STUDIO4℃」社員の告発

note

アニメを制作するために適正な予算が用意されていない

 今年9月には組合と会社側の団体交渉が行われたが、会社側からは何ら具体的な回答がなく、Aさんは提訴に踏み切ったという。

「今回の事件に関しては、残業代未払いと長時間労働という二つの観点の問題があります。4℃だけの問題ではなく、どちらもアニメ業界では当たり前のように横行しています。アニメ産業のビジネスモデルが問題となっていて、そのしわ寄せが制作進行やCGのクリエイターなどの現場にきています。

 そもそもアニメを制作するために適正な予算が用意されておらず、現場の人間が低賃金になっていく。長時間労働とも密接に関連しています。フリーランスであれば、低賃金であるがゆえに稼ぐためにキャパシティを超えた過重労働になる。正社員であれば、(裁量労働制とすることで)使用者が人件費を気にせずに無限に働かせることができる。

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 未払いの残業代の支払いを求めての提訴ですが、お金のためというよりは、労働環境を改善したいという思いがあります」(Aさん)

 

現場のクリエイターが声をあげることで

 現在、Aさんの月給は基本給15.9万円、職務給(見込残業手当)と見込深夜手当なども含めた合計が22.2万円。フリーランスのアニメーターは、月収10万円程度で毎月数百枚の作画を行っているケースもざらにあるという。Aさんは、労働環境について「自分よりも長時間労働だった人は周囲にたくさんいました。アニメ業界では、隣で働いている人が『明日死ぬんじゃないか』という思いは常にあります。健全であるとは思えません」と語っている。

「解決を図るために労基署にも行きましたが、現状では限界があると痛感しました。誰かが悪いという話ではないが、行政のシステムとして動きづらそうだと感じました。現場のクリエイターが声をあげて、適正な支払いを求めていくことでしか解決できないと思います」(Aさん)

 

 Aさんの提訴をめぐっては、訴訟費用を賄うため50万円を目標としてクラウドファンディングが行われる。

「ブラック企業ユニオンには、アニメ制作会社からの相談や問い合わせが非常に多くなっています。クリエイティブ業界、エンタメ業界の裁量労働制には大きな問題があります。そのためにも、きちんとした判例を作っていきたい。Aさん個人のためであると同時に、アニメ業界、クリエイティブ業界全体を健全化するためにご支援をいただきたい」(坂倉氏)

 アニメ制作会社の制作進行担当をめぐっては、今年、日テレ子会社の「マッドハウス」でも残業代未払いと長時間労働の是正を求めて団体交渉が行われていた。クールジャパンの中核を成すアニメ業界だが、旧態依然とした体質から脱却できるだろうか。

写真=杉山秀樹/文藝春秋

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