この1年間で同じ質問を10回くらいされてきた。
――佐々木と奥川、どっちがすごいですか?
質問者の心情は理解できる。アマチュア野球に明るくない人にしてみれば、やたらと「逸材」と報じられる佐々木朗希(大船渡→ロッテ1位)と奥川恭伸(星稜→ヤクルト1位)のどちらが「すごい」のか知りたいと思うのが人情だろう。
だが、アマチュア野球を中心に取材している私とすれば、これほど酷な質問はない。佐々木と奥川に優劣をつけるということは、「長澤まさみと新垣結衣のどちらがかわいいかを決めよう」と言っているようなものだ。
そんな話を旧知のライター仲間にしたところ、「いや、それはガッキーでしょう」と即答されてしまった。だが、ふざけてもらっては困る。私は長澤まさみ派なのだ。ようは優劣をつけるのはナンセンスであって、結局は「見る人の好み」なのだ。
「ロマンの佐々木、安心の奥川」
佐々木と奥川を評する際、私は「ロマンの佐々木、安心の奥川」というフレーズを使う。
「令和の怪物」の異名をとる佐々木のロマンを語る上で、忘れられない日がある。2019年4月6日。高校日本代表候補合宿の紅白戦に、佐々木は登板した。
左足を高々と上げ、190センチの長身から叩きつけるダイナミックなフォーム。誇張ではなく、見ているだけで恐怖心を覚える暴力的なボールだった。おまけにスライダー、フォークの変化球も高速で鋭く変化し、捕手を務めた藤田健斗(中京学院大中京→阪神5位)はほとんど捕球できなかった。
藤田は当時を「投手の球を受けていて、初めて恐怖を感じました。140キロ台で曲がる変化球なんて初めてだったので、体が反応できませんでした」と証言している。2回を投げ、日本を代表する高校生打者を相手に6連続奪三振と完璧な投球を見せた登板後、ライター仲間から「最速163キロが出ていた」と聞かされた。だが、それほど驚きはなかった。数字以上の凄みを体感していたからだ。
あれから春、夏と大船渡の公式戦を現地で6試合見たが、この日ほどインパクトの強いパフォーマンスは見られなかった。というのも、代表候補合宿の後、骨密度などを測定した佐々木は「大人の体になっていない」という結果が出ていた。