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全てが終わった時、北山の演じるモリスは……
「ザ・ネザー(低地)」(オランダを意味する「ザ・ネザーランズ」のネザーである!)と呼ばれる仮想空間で、そこには美少女アイリス(長谷川凜音/植原星空)が居て、顧客の相手をする。仮想空間で小児性愛の行為が行なわれているのだ。それを運営するのは普通の紳士であるシムズで、顧客がドイルである。
取調室で尋問が行なわれても、シムズは運営するネットワークのサーヴァーの位置を容易には明かさない。ドイルは当初、顧客として「ネザー」を訪れるが、やがて仮想空間でアイリスの役を演じるようになる。潜入捜査官がそれを知ることになり、ドイルは自殺。それで、シムズはやっとサーヴァーの位置を白状することに。
芝居の冒頭に雨の場面があり、末尾に雪の場面がある。全てが終わった時、北山の演じるモリスは降る雪を手に受けて、そっと握り締める。その様子は、感情が溶けてしまう雪のようにはかないものであることを印象づけていた。シムズとドイルの取り調べを行なう際の部屋の電飾を変化させ、また、仮想空間に入っていく際に、CG(コンピューター・グラフィックス)でヴィクトリア時代の屋敷や木々の輪郭を描いて、荘厳な雰囲気を出していた。
仮想空間では現実の人間が全く別の人格をもって自由に行動できるはずなのだが、愛は相手の存在の全てを受け入れたい、相手の全てを知りたいとする衝動なので、仮想空間であっても、相手を愛してしまうと現実空間のアイデンティティーの片鱗を相手に与えることになってしまう。だから、個人は仮想空間にあっても現実空間と全く無関係に存在できるものではないのである。