カトリック教会の総本山バチカンからの、ローマ教皇フランシスコ(82)の訪日まで1か月を切った。38年ぶりの慶事に日本のカトリック教会は歓迎の演出に躍起だ。だがその喧騒にかき消され、“教会の黒歴史”――聖職者による小児性的虐待の実態解明は遅々として進んでいない。その消極的な姿勢が今回、独自に入手した資料から浮き彫りになった。

教皇来日の特設ホームページ「POPE IN JAPAN 2019」のサイト画像

テーマソングまで制作した日本のカトリック教会

 フランシスコは11月23日からの4日間、信徒が多い長崎で非核化へのメッセージを発するほか、もう1つの原爆被災地・広島で平和をアピールする集会にも出席。東京では東日本大震災の被災者や安倍晋三首相とも面会する。

 ヨハネ・パウロ2世以来で38年ぶり2度目の教皇の来日だけに、日本のカトリック教会関係者の鼻息は荒い。教会や関係施設では教皇の写真を大きく配したポスターを掲示し、インターネットには特設サイトを立ち上げたばかりか、オリジナルのテーマソングも制作して動画として公開し、来日を祝福している。 

ADVERTISEMENT

フランシスコは広島で行われる集会にも出席する ©iStock.com

 だが、多くの国民にとってキリスト教が縁遠い宗教である日本と、身近に教会が存在する欧米などキリスト教国の国民では、抱かれている教皇像は異なる。

 欧米諸国では、人権や環境の問題で「正義の象徴」としての教皇像はすでに色褪せつつあるのだ。

教皇の最大の仕事は“被害者に対する謝罪”だった

 フランシスコが2013年の就任以来、これらの国々で向き合ってきた最大の仕事は“被害者に対する謝罪”だった。男性神父が未成年者に性的関係を強いる性的虐待、すなわちペドフィリア被害への対応である。

 カトリック国で長年、その存在が指摘されながらタブーだった神父の小児性的虐待は02年1月、米国「ボストン・グローブ」紙の調査報道をきっかけに問題が急速にクローズアップされ、米国全土、アイルランド、ドイツなどカトリック信徒が多くいる国々を中心に、十数か国で犠牲者が名乗りを上げるようになった。宗教指導者の“権力”を背景に信徒の子弟も従わざるをえず、表面化しないため、加害者の多くに常習性が生じやすい。また、組織を守るための上長の司教らによる隠蔽も繰り返されていた。

各国で抗議活動が行われている ©AFLO

「スポットライト」と題されたボストン・グローブ紙の一連の調査報道はピュリッツァー賞を受賞し、映画化作品はアカデミー賞を受賞した。一方、訴訟が相次いだため、米国では複数の教区が賠償金負担で法人として破産危機に陥った。

 欧米諸国では次々と第三者委員会が立ち上げられ、調査が行われた。政教分離を重んじる近代国家では公権力による宗教への介入に慎重になるのが原則だが、教会内部の腐敗の摘出に二の足を踏む教団への不信感がそれを上回ったのだ。

 例えば米国ペンシルベニア州の大陪審は昨年8月、1947年以降、1000件以上の性的虐待があったと発表した。実名を公表された司祭の数は300人以上に及んだ。