フランシスコ自身も他人事ではない。序列3位に任命したオーストラリア人の枢機卿、ジョージ・ペル氏(78)が今年3月、23年前に聖歌隊員の少年2人に対して性的暴行を働いたとして豪ビクトリア州裁判所で有罪の評決を下された(ペル氏は控訴したものの8月下旬に州最高裁判所で行われた控訴審で棄却された)。
教皇は昨年12月の演説で「司法当局に出頭し、神の裁きに備えよ」と述べるなど加害神父への非難を強め、何度も謝罪した。2月下旬には性的虐待対策を話し合うため各国の司教協議会の会長を招集した「未成年者保護会議」を開いている。もちろん、カトリック史上初めてのことだ。
日本でも起きていた「神父による性的虐待」
この会議に日本カトリック司教協議会会長として出席したのは、高見三明・長崎大司教である。高見氏はバチカンの会議後の今年4月7日、都内の会議室である人物に面会し、謝罪した。
その人物とは、月刊「文藝春秋」2019年3月号で、修道会「サレジオ会」が運営する児童養護施設で受けた性的虐待について実名で語った竹中勝美氏(63)だ。
親が離婚し母が入院していた竹中氏は、中学卒業までの9年間をこの施設で過ごした。取材に対し竹中氏は、在園中のある時期、元園長のドイツ人神父から神父の部屋に呼び出されてはその性器をつかまされるなどの虐待を受けていたこと、大人になって記憶を取り戻し苦しんだこと、そして「ほかにも被害者がいるはず」と客観的な調査を求めたのに、加害神父の死亡を理由に所属する修道会もカトリック中央協議会も、本格的に調査に乗り出しはしなかったことを明らかにした。
同誌が刊行された直後の2月、私の取材に対してサレジオ側から「2000年前後に、2名の卒園生から身体的虐待、性的虐待の申し出があった」との回答が送られてきたが、「性的虐待については確認できなかった」と曖昧なままだった。
前述の謝罪の言葉を述べた場で高見氏は、全国に16ある司教区を通じ調査を実施することを申し合わせたと明かした。
だが半年経った今も、調査結果は明らかにされていない。
密かに行われていた調査のメモを入手
私は繰り返し、中央協議会に対して調査の方法や公表時期について問いかけてきた。だが、繰り返された回答は「決まったらホームページに公表します」(司教協議会事務部広報課)というもので、透明性を確保し、不信感を払拭しようという意欲は感じられない。
――だが、実は調査はすでに行われていた。取材を通じて私が入手したA4判1枚のメモは冒頭に〈2019年アンケート結果〉と題され、全国の司教に対して、把握している被害件数について回答を取りまとめたことが示唆されている。
これによれば〈19年調査〉で把握された小児性的虐待の被害件数は8件。件数があるだけで、誰が誰に対してどのような加害行為をしたのかは、明らかではない。
さらに〈02年・12年の再調査〉の項目があって、これは13件。02年は竹中氏が被害を申し出た翌年で、12年はその10年後のことだ。