そもそも過去の私の取材では02年に2件、12年に5件の被害が把握されていた。だが今回の調査ではその合計は13件で、明らかに増えている。
見逃せないのは、これらを合計すれば02年以降の17年間に、実に21件もの小児性的虐待の被害報告がなされていた事実だ。再調査によって件数が増えていることからすれば、過去の回答で一部の司教が、隠蔽した案件があった可能性もある。
〈異動〉3件、〈聖職停止〉1件とあるが……
加えて内部的に処分を下したと思える記述もあって、〈異動〉3件、〈聖職停止〉1件とある。処分している以上、不祥事があったことは間違いないと推察できるが、どのような案件だったのかは、記載がない。これまた、件数だけしか書いていない。一体、どのようなアンケートをしたというのか、疑問だらけである。
海外の教区では、加害神父を異動させるだけで被害実態を隠蔽したケースが多い。だからこそ、元裁判官など司法的な調査のノウハウを持ったメンバーで構成される第三者委員会が事実解明にあたった。米国でもアイルランドでも、被害が確実に証明できた案件では加害者の実名も公表されているほどの厳格な調査だ。
一方、日本では、第三者委員会は一度も設置されていない。
問い合わせには「答えることができません」
この不可解な〈アンケート結果〉は、組織に自浄作用を働かせることに及び腰なままの日本のカトリック教会の姿勢をくっきりと浮かび上がらせているように思えてならない。
こうした疑念について、中央協議会の中でアンケートの取りまとめ役を担った「子どもと女性の権利擁護のためのデスク」の責任司教である松浦悟郎・名古屋司教に質問を送ったところ、「デスクとして答えることができません」と記したメールが返ってきた。広報担当ではないからだという。
ただし、メモについては司教団幹部の手元にあったものであることを事実上認め、「(アンケート結果には)件数に重複が予想されるなど、公表するには不明な点がいくつかあるので、その点を明確にする必要がある」と調査の中途段階であるとも書いていた。前出の広報課にも改めて問うたが、期限までに回答はなかった。
教皇フランシスコの来日は、総括の好機ではないのか。聖職者の過ちがこの日本でも存在したこと、そして今後、こうした被害を根絶するための第一歩として第三者による調査に踏み出すべきという、当たり前の方針を示すことが求められているのではないだろうか。