2019年に「90年代」を持ち出すCMが多いのは……
速水 ビールに限らず、車のCMとかも進歩がないとは思う。ただ難しいのは、広告業界の人たちはそんなこと当然わかってやってるわけじゃん。だからうかつにはツッコめないんだよね。
おぐら 車のCMも、機能性推しとブランドイメージ推しでわかれてますよね。機能性のほうでいうと、DAIGOと加藤ローサが夫婦役で出てるタントのCMは、糖質オフ系の発泡酒と通じる部分があって、玉山鉄二がやたらとハイテンションなウェイクのCMは、ストロングゼロと同じ匂いがします。
速水 機能主義の車のCMは、この10年ずっと家族を描いてるけど、この流れを作ったのは佐藤可士和だと思う。もう20年以上前だけど、キャッチコピーが「こどもといっしょにどこいこう」っていうホンダのステップワゴンのCMが彼のデビュー作。
おぐら 音楽でいうと、宇野維正さんがずっと批判している、若い俳優に90年代のJポップを歌わせるCMも目立ちます。カローラのCMで、菅田将暉と中条あやみがTHE BOOMの「風になりたい」を歌ったり。
テレビCMに変化! 女優たちが“懐メロカバー”を披露するようになった「広告事情」(週刊女性PRIME)
https://www.jprime.jp/articles/-/16305
速水 散々言われていることだけど、90年代のJポップがCMに使われるのは、決定権のあるCM制作者と、テレビを見て商品を買う層のどっちも40代だからっていうのはたしかにあると思う。カローラスポーツのCMに菅田将暉と中条あやみを起用したのも、若者たちにこういう青春を謳歌してもらって、車でドライブさせたいっていう、おじさんの発想だよね。
CMからスターが生まれ、ヒット曲が生まれた時代
おぐら カローラのCMといえば、個人的にはやっぱり小沢健二です。
速水 カローラⅡのCMね。あれが1994年か。
おぐら 1995年には、小山田圭吾が小枝のCMに女装して出演してました。
速水 渋谷系に勢いがあって、広告にもよく使われた。
おぐら でも人生で最も影響を受けたと言えるのは、1996年の広末涼子が出ていたドコモのポケベルのCM。広末涼子と同い年というのもあって、同級生の男子がみんな広末涼子を好きになっていました。僕もこのCMを見てポケベルを買い、CMで曲が使われたカジヒデキのCDも買い、CMで広末涼子が履いていたエアマックス95も買って、CMのロケ地である品川のタコ公園にも行きましたから。
速水 CMがうまくいっていた、いい時代だね。スターも生まれたし、使われた音楽も売れた。
おぐら ガンガンに訴求されまくってました。
速水 最近だとなんだろう。規模はだいぶ小さくなるけど、ホンダのヴェゼルはそこそこヒットしたし、2016年に曲「STAY TUNE」が使われてSuchmosもブレイクした。
VEZEL「VEZEL TOURING」篇(2019年7月・Honda Movie Channel)
https://www.honda.co.jp/movie/201907/vezel01/index.html
おぐら あれはもはやSuchmosのCMだと思って見てました。
速水 CM自体はダサいんだけどね。「その走り、世界ヴェゼル」って、何も言ってない。
おぐら 車のブランドCMって、ずっとこういう俯瞰から撮って疾走感みたいなイメージ映像ですよね。
速水 それなりに高級な車のCMは、車をいかにかっこよく撮るか以外の具体的な訴求例がないんだよ。さっき話した機能主義で庶民派の車って、本当に利益率が低いので、商売としてはあまりおいしくない。
おぐら 菅田将暉、賀来賢人、間宮祥太朗、杉野遥亮の4人が出演しているアタックZEROのCMも90年代っぽさあります。
速水 あれはタランティーノのパロディでしょ。
おぐら 『レザボア・ドッグス』ですか?
速水 それもだし、『SMAP×SMAP』感もある。めちゃめちゃ90年代だよ。