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さらに強さを増す広告業界の陰に「ハズキルーペCMの大ヒット」

おぐら 今って広告業界は人気あるんでしょうか。代理店やクリエイターに頼らずとも、SNSがあれば個人でいくらでもプロモーションができて、いいものは自然と広まるインフラが整備された。そうなると、広告費よりも製品開発とかそっちに予算を使う流れになりません?

速水 どうだろう。今こそ広告業界の力はすごく強い気がする。マスコミは圧倒的に嫌われていて、かつてだったらテレビ局や出版社を志望していたような人たちも、広告にしか興味がない。もはやクリエイティブ系の仕事=広告になってる。

おぐら とはいえ、広告の影響力も落ちてるし、効果測定の結果が露骨に出るような状況では、広告費は真っ先に削られそうですけど。

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速水 CMとかの販売促進力は落ちているとしても、広告を使って何をやるかみたいな、若い人たちにとって「私が入れば今の広告にないものを」っていうのが面接の常套句になっている。つまりネット世代の感覚をアピールするっていう。

 

おぐら テレビCMのクリエイターが広告業界の花形だった時代は終わっても、バイラルを仕掛けるみたいなことはまだ魅力的なんですね。マスコミ業界における公務員的な安定もあるでしょうし。

速水 バイラルもそうだし、CMも15秒や30秒の枠にとらわれなくなって、物語性やメッセージ性のある凝った映像を作ったりもできるようになった。それで広告の価値も上がっていったんじゃないかな。

おぐら 広告クリエイターのツイッターを見ていると、すごい意識高いんですよね。「時代をアップデートする」とか「今の広告には社会を変革するメッセージが必要だ」とか「よりよい社会を目指すために広告にできることは」みたいな投稿をしている人が多い。で、企画の学校とかはじめちゃう。

速水 でもその裏では、ハズキルーペのCMが大ヒットしてる現状もある。数々のヒットCMを作ってきた人たちが「俺たちはハズキルーペに負けている。あのCMから学ばなきゃいけない」と言っていて、何も返せなかったよ。ツイッターにクリエイターポエムを投稿してる場合じゃない。

ハズキルーペ 公式CM 舞台リハーサル 編

 

いつの間にか空っぽになった「ライフスタイル」という市場

おぐら あれはポエムなのか。そう考えると、意識高いというより、マインドとしてはマイルドヤンキーですね。

速水 糸井重里のほぼ日手帳っていまだにものすごい売れているけど、「ほぼ日」的なものを支持してるのも、基本マイルドヤンキー層だと思う。

おぐら え? ていねいな暮らし層じゃないんですか?

速水 そこと一緒にしちゃいけないと思うんだよ。実際は郊外に住んでいて、ミニバンに乗ってショッピングモールに行って子育てをしている人たちのほうが、糸井重里のこと好きだと思うよ。

おぐら なるほど。その層が一番ボリュームありますもんね。だからマスをターゲットにしている広告クリエイターにマイルドヤンキー的な思考の人が多いのか。

速水 ニッチを狙いたいなら広告やる意味ないからね。

おぐら マイルドヤンキーって、言葉としては時代性があるように感じますけど、実は普遍的な存在なんですよね。

速水 そうね。根底としてはトレンドに寄らない、みたいな人たちなわけだから。ついでに言うと、ちょっと前までショッピングモールに出店ラッシュだったライフスタイル系のお店が、今どんどん潰れてる。

 

おぐら セレクトショップが生活雑貨を売ってるようなお店、一時期たくさんありました。

速水 ショッピングモールはライフスタイルストアですっていうのはやっぱり幻想だったんだよ。5年くらい前まではショッピングモールのコンセプトに「ライフスタイル」って入れるのが流行で、どのブランドも同じようなことを打ち出していたけど、いまその市場が空っぽになってる。