全世界で7億4000万ドル(約799億円=歴代興収記録119位)、北米で3億2000万ドル(約345億円=歴代興収記録66位)、日本では22億円もの興行収入を記録し、映画史上最もヒットしたホラーとなった『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(17)。公開中の続編『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』も、既にアメリカでは初登場1位、わずか公開3日間で興行収入9106万ドル(約98億円)をマーク、改めて凄まじい人気の高さを示すこととなった。
古くは『ローズマリーの赤ちゃん』(68)や『エクソシスト』(73)、最近では『死霊館』シリーズ(13~16)やそのスピンオフ『アナベル』シリーズ(14~19)、『ゲット・アウト』(17)、『へレディタリー/継承』(18)と、ホラーには社会現象となった作品やドル箱シリーズが数多いが、やはり観る人を選ぶジャンルではある。どうせ金を払って映画を観るなら怖い思いをするよりも楽しめるほうがいいと観客の多くは考えているわけで、どんなに当たっても歴代興収上位にランクインすることはない。そんななかで前作があそこまでのメガヒットとなったのはまさに異例中の異例。恐ろしい内容が受けたのは確かだが、ほかにも人々を惹きつけるものが『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』にはあったのだ。いったい、“それ”はなにか?
罪悪感や劣等感を“絶対的恐怖”へと転化する
原作はスティーヴン・キングが1986年に発表した「IT(イット)」。キングといえば、やはり映画にもなった「キャリー」、「シャイニング」、「ミザリー」などで知られるベストセラー作家である。“モダン・ホラーの帝王”の異名を持つ彼の代表作を映画化しただけに夢に出てきそうなゾッとする場面がベルトコンベア状態なのだが、それらを引き起こす存在がペニーワイズ。米メイン州の小さな町デリーに27年周期で出現しては、次々と子供の命を奪っていく殺人ピエロだ。
排水溝の中からヌッと顔を覗かせ、グシャグシャに折りたたまれた状態で朽ちた冷蔵庫から這い出し、プロジェクターで投影された家族写真の母親からピエロ姿へと変貌してスクリーンから飛び出すといった具合に、時間も場所も選ばずに襲いかかってくる神出鬼没ぶり、肉体を“大小伸縮”させてあらゆるものに姿を変える変幻自在ぶりには劇中の子供たちと同じように逃げ場はないと感じてしまう。しかし、彼の恐ろしさの本質は、狙いを定めた子供が抱く“傷”と“負”を利用する狡猾さにある。