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第1位 なぜか駅よりも大きい(?)漁船が鎮座――「新蒲原駅前」

静岡県清水市にある「新蒲原駅」が第1位。そのスゴイ駅前とは?
「新蒲原駅」の駅前。このアングルからは分からないが……

“新”という文字を冠しているから新しい町の駅なのかと思ったら、もともと東海道の宿場町であった蒲原宿にはこの新蒲原駅のほうが近いらしい。隣には新蒲原駅より古く開業した蒲原駅があるが、周辺の駅との距離という事情でこうした曲折があったという。蒲原の町は今では静岡市清水区に含まれるのであるが、結局のところ蒲原の町を目指すならば 蒲原駅ではなくて新蒲原駅を目指すべしということになる。

 さて、そんな新蒲原駅であるが、改札口を抜けて駅前広場に出たときに東海道線ではいちばん驚きを覚える駅でもある。なにしろ、広場にドカンと大きな漁船が鎮座しているのだ。ミニチュアの像ではなくてホンモノの漁船。小さな駅なので小ぶりな駅舎だから漁船の方が大きいくらいである。船が駅前にあるというところでは、東海道線蒲郡駅にも共通している。ただ蒲郡駅の場合はアメリカズカップに参加したというヨットであって、そこだけにしかない唯一無二のもの。漁船は、海沿いの港町ならば全国どこにでもありそうなものである……。

こちらが新蒲原駅前にあるホンモノの漁船。駅が小さく見える
こちらがさくらえび漁船の説明板

 いったいこの漁船はなんなのか。傍らにある説明板を見ると、さくらえび漁100年を記念して1994年に置かれたものだとか。駿河湾はさくらえびがたくさん獲れることでおなじみで(ここ数年はかつてないほどの不漁続きらしいが)、国内でさくらえび漁が行われているのも駿河湾だけだという。さくらえび漁のための漁船も蒲原漁港や油井漁港などに約120隻しかないというから、なかなか貴重なものなのだ。

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“国産さくらえび”の100%をまかなう駿河湾のさくらえび漁。そのはじまりから100年を記念して、さくらえび漁の拠点のひとつである蒲原の町のターミナルにオブジェとして漁船が鎮座する……。最初に見たときには呆気にとられたが、地域の誇りがビシビシと伝わってきてなかなかいいではないか。ただ惜しむらくは周囲にさくらえびを食べさせてくれるような店は見当たらず、駅前広場の先にあるのがイオンということである。

今回、駅前でさくらえびが食べられるお店を見つけることはできなかった

 地域の特産や偉人を象ったオブジェが置かれている駅はまだまだある。静岡駅前には徳川家康、岐阜駅前には織田信長の像が立つし、焼津駅前にはマグロのモニュメント。ラグビーW杯も行われたエコパスタジアム最寄りの愛野駅前にはスタジアムの座席が置かれているのも印象的だ。神奈川県内の二宮駅の「ガラスのうさぎ像」のように戦争の悲劇を伝えるものもあれば、甲子園口駅のように「甲子園球場のある街」を誇る野球のオブジェもある(いや、甲子園口駅から甲子園球場はだいぶ遠いのだが)。駅はその町のシンボル。駅前の一角にあるオブジェから町の“誇り”を知る鉄道の旅を、東海道線から始めてみてはいかがだろうか。

写真=鼠入昌史

降りて、見て、歩いて、調べた 東海道線154駅

鼠入 昌史

イカロス出版

2019年10月10日 発売