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大炎上の「血液クレンジング療法」を日本の医療界は笑えるか? 現役内科医が明かす“衝撃の事実”

医療のエビデンスと私たちはどう向き合うか?

2019/11/07
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 さらに、血液クレンジング療法が芸能人らセレブの御用達になったのは、比較的高額な自由診療で特別感が演出されていることも、その理由の一つだと考えられる。日本は国民皆保険で、有効性が認められている治療法はほぼ全て保険診療で受けられるのだが、血液クレンジング療法は一般人と同じ治療では満足できないセレブ達の、いわゆる「上級国民」的意識をくすぐったのではないだろうか。

こういう場合、医師はどのようにエビデンスを調べるのか?

 米国政府からは完全否定されている血液クレンジング療法(オゾン療法)だが、19世紀末に人体への応用が始まるなど、それなりの歴史はあるようだ。イタリアやドイツなどヨーロッパを中心に、中国などでも正統派の医療とは異なる代替医療の一種として実施されてきた。

 では、このような情報に接したとき、医師がその医学的なエビデンスをどう調べるのかご紹介しよう。

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 私がよく行うのは、いくつかある英語のデータベースを使って、医学専門誌に掲載された論文や診療ガイドラインなど、信頼できる情報をチェックする、という方法だ。残念ながら医学論文を含めた日本語の情報は、学術的には質も量も十分ではないとの世界的な共通認識があるため、やはり英語の情報に頼らざるをえないのだ。

 血液クレンジング療法は、英語にすると 「オゾン・オートヘモセラピー(Ozone Autohemotherapyまたは Autohaemotherapy)」となる。ためしに有名なデータベースの一つ、アメリカ国立衛生研究所が運営する国立医学図書館のパブメド(PubMed)でキーワード検索すると、少なくとも84報の論文が発表されていた(2019年11月5日現在)。

血液クレンジング療法の“有効性”は示されている?

 それらの論文の中には動物実験などの基礎研究もあるが、一部では人間を対象にした研究(臨床試験)も発表されている。さらに、血液クレンジング療法をする/しないで比較した、信頼性が高いとされる「ランダム化比較試験」もいくつか行われている。

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 たとえば、2012年に国際眼科学雑誌に報告された論文では、イタリアのシエナ大学の研究者がランダム化比較試験を行っている。ある種の眼の病気を持つ140人の患者を2つのグループに分け、片方はビタミン剤療法、もう片方は血液クレンジング療法を行い、どちらで治療効果が出たのか比べてみたのだ。その結果、血液クレンジング療法は特段の副作用もなく、実際にビタミン剤療法を上回る視力の改善効果が観察されたと結論し、抗酸化分子の産生を促すような検査結果も確認したと書かれている。

 すなわち、13世紀に創設された由緒あるシエナ大学から、信頼性の高いランダム化比較試験が国際誌に発表され、“有効性”が示されているわけだ。こう書くと、やっぱり血液クレンジング療法には効果があるのではないか――と思われる方もいるかもしれない。