しかし、ここに医療の難しさがある。ポジティブな研究結果がいくつか出ただけで、「この治療法には効果がある」と広く認められるわけではないのだ。病気の種類や患者の状態、さらには偶然性や研究者の思い込みなどによっても、容易に研究結果は左右されてしまう。実際、一部の研究者によって当初は有効だとされた治療が、その後の研究(追試験)で結局は無効なばかりか、有害だったと評価がひっくり返ることも珍しくない。
掲載されているのは聞いたことがない専門誌ばかり
私が検索した限り、血液クレンジング療法に関する論文には、有効性を謳うものも確かに散見されるが、研究のレベルは総じて低く、掲載されている専門誌も聞いたことがないものばかりが目についた。それどころか、心筋梗塞や不整脈といった重篤な副作用を報告し、安易な実施に警鐘をならす論文すらある。
英語の医学専門誌は1万種類以上あるが、世界中で称賛される超一流誌から、紙屑のような誰も読まない雑誌まで、厳然としたヒエラルキーが存在している。そのうえ、超一流誌の論文ですら捏造事件がしばしば起こるし、お金を積まれれば質を問わず何でも掲載してしまうハゲタカ学術誌も跋扈している。一部の施設がマイナーな専門誌に少し報告を出したくらいでは、世界の医学界の主流派からは認めてもらえないのだ。
血液クレンジング療法について、美容やアンチエイジングに対する効果を証明した論文も見当たらなかった。結局、死亡につながる副作用も起こりうる研究段階の治療方法が、一部の医療機関の金もうけの手段になっている、というのが真相のようだ。
日本の医療界が抱える“問題”との繋がり
しかし、私は血液クレンジング療法を単なる「トンデモ治療」として一笑にふすことはできないと思っている。この騒動は、日本の医療界が抱える“問題”と深いところで繋がっているように感じるからだ。
たとえば、大した有効性もない高価な新薬を、大手製薬メーカーから多額の謝金を受け取った大学教授らが宣伝するのは、残念ながら日常茶飯事になっている。芸能人などのインフルエンサーが、お金をもらってSNSでステルスマーケティングを行うのと全く同じ構図だ。
それに釣られた一般の医師も、何の疑いもなく安価な既存の薬より新薬の方を処方している。つい最近もインフルエンザの新薬ゾフルーザが、安い既存の薬タミフルやその他ジェネリック医薬品と同じ効果しかないのに大量に処方され問題となった(朝日新聞デジタル「インフル治療に新薬ゾフルーザ 専門医が慎重なワケは」等を参照)。これでは、営利目的の血液クレンジング療法と同じ穴のムジナとの誹りを免れることはできない。