家電も自動車でも定番商品となったものは、マイナーチェンジを繰り返したり、大胆な変更を行なってみたりすることで消費者の心を繋ぎ止めるもの。それは4年ぶりの最新作となる第6弾『ターミネーター:ニュー・フェイト』にも登場する、殺人サイボーグ“ターミネーター”ことT-800にも同じことがいえる。
今年72歳を迎えるシュワルツェネッガー
ただしT-800の仕様変更は、30年以上にわたって同機を演じてきたアーノルド・シュワルツェネッガーのキャリアの紆余曲折が大きく作用している。ボディビルダーから肉体派俳優へ、アクション・スターから誰からも愛されるスターへ、俳優から政治家へ、政治家から酸いも甘いも噛み分けたベテラン俳優へ……。
今年72歳を迎えるシュワルツェネッガーの生き様が歴代T-800の仕様を変えていったことになるわけだが、T-800がシュワルツェネッガーの人生を支えてきたともいえなくもない。シリーズを振り返りながら、そんな役柄と俳優の持ちつ持たれつな関係に迫っていきたい。
元妻殺人の容疑者の起用が検討されていた
未来から送り込まれてくるサイバーダインシステムズ社製のT-800が初登場するのは『ターミネーター』(1984)で、任務はウェイトレスのサラ・コナーを殺すこと。未来では人工知能スカイネット率いる機械軍と人類の抵抗軍の戦いが繰り広げられており、人類の勝利が確実のものとなっていた。その抵抗軍のリーダーが、後にサラが産む息子のジョン・コナー。スカイネットはジョン誕生を阻止すべく、サラ抹殺をプログラミングしたT-800を1984年のロサンゼルスに送り込む。後続の作品も、基本的にはT-800とコナー母子の対峙、スカイネットとの戦いが描かれると考えていい。
いまでこそターミネーター=T-800といえばシュワルツェネッガーだが、当初スタジオ側は元アメフト選手で1994年に元妻殺人の容疑者となって世間を騒がせたO.J.シンプソンを、監督のジェームズ・キャメロンは同作で刑事役を演じていたランス・ヘンリクセンを起用しようと考えており、シュワ自身もサラを守るために抵抗軍が送り込む兵士カイル・リース役を希望していた。しかし、キャメロンはシュワと対面するやT-800に相応しいのは彼しかいないと直感。その読みは見事的中、ボディビル大会の最高峰ミスター・オリンピアで6連続優勝を成し遂げた人並み外れた筋肉隆々にも程がある肉体の重厚さ、オーストリア出身であることから生じる独特のイントネーションはたしかにマシーン感を醸し出すことに一役も二役も買っていた。