こんなのが鎖のジャラついたジャケットやライダース・ジャケットをまとい、顔面右半分の表皮が剥げて金属製の骨格が露出しようとも追いかけるのをやめず、警察署の受付でサラとの面会を取り付けて「I'll be back(また戻ってくる)」と言い放って数秒後にパトカーで突っ込む形で署に戻って数十人の署員を皆殺しにしてしまう。
日本公開時のキャッチコピー“冷酷!非情!残虐!史上最強《悪》のヒーロー!!”を地でゆく暴れぶりに観る者すべてが圧倒されると共に魅了され、シュワは新たなアクション・スターとして注目を浴びる。ちなみにT-800の顔面半分の表皮が必ず破れるのは本作からのお約束。「I’ll be back」も決め台詞として微妙にアレンジされたものが言い放たれるように。
『ターミネーター2』で悪のヒーローから真のヒーローに
『ターミネーター』を足掛かりにシュワは『コマンドー』(85)、『プレデター』(87)、『トータル・リコール』(90)とヒット・アクションを連発、『ツインズ』(88)と『キンダーガートン・コップ』(90)でコメディにも進出してアクションを観ない層にも受け入れられた。そんなブレイク時にジェームズ・キャメロン監督と再びタッグを組んだ『ターミネーター2』(91)が放たれる。
演じるのは、未来のジョン・コナーが1994年の自分を守るために送り込んだ2体目のT-800。前作とは真逆のプログラミングを施された設定だが、ジョン少年を守るためにバイクに跨ってライフルを撃ちまくり、自ら盾となって敵のターミネーターT-1000や警官隊が浴びせかける銃弾を全身で受け止める守護者ぶり、ヒーローぶりには逆転の興奮を感じた。さらに、ジョンと親子のような絆まで育み、溶鉱炉に身を投じて別れを告げる際には「(機械なので)泣くことができないが、泣く気持ちがわかった」なんて語るものだから、こちらも劇中のジョン同様に涙と鼻水でグシャグシャになりながらスクリーンのT-800に手を振ったもの。
人を殺さず、少年を守るターミネーターを演じたシュワはスターのなかのスターに。こと日本では“シュワちゃん”の愛称で親しまれて数多くのCMに出演、かの淀川長治大先生も対面した際に「一緒に風呂に入りましょう」と熱望するほど。
“反肉体派”俳優のアクション進出
しかし、1993年に主演した超大作『ラスト・アクション・ヒーロー』でキャリアが大きくグラつきはじめる。あらゆる層にも受け入れられようとして緩すぎるアクション・アドベンチャーに仕上がってしまったこともあるが、無謀にも『ジュラシック・パーク』(93)と公開時期をぶつけたばかりに同作は、『ジュラシック~』よりも巨額の製作費8500万ドル(93億円)を投じたにもかかわらず全米興収5000万ドル(54億円)しか稼げない大惨敗を喫する。また『ザ・ロック』(96)のニコラス・ケイジ、『ダイ・ハード』(88~2012)シリーズのブルース・ウィリス、『ヒート』(95)のロバート・デ・ニーロといった“反肉体派”俳優のアクション進出もあって、シュワの存在感は徐々に薄いものになっていった。