寄付の申し出のうち、約125億円が送金された
外観は変わらないように見えるが、対策は国が先頭に立って迅速に行われている。
カトリック教団ではなく、国が先頭に立つのは、政教分離の原則からだ。フランス革命で教会は国に接収されて非宗教施設になった。ノートルダムも1789年11月以来国有である。現在、土地建物は国の所有だが宗教側に無償で提供されている。つまり、国は所有者であるから建物の維持管理の責任があるのだ。
国はあくまでも宗教施設としてではなく文化財として所有しているので、主管官庁は文化省である。火災直後はその出先機関(地方文化局)、続いてすぐさま政令で、管理下の特別公共事業体が設置された。
7月29日には、「パリのノートルダム大聖堂保存修復とこのための国民募金設立に関する法」が公布され、この法律に従って、先に緊急に作られた公共事業体は12月から「ノートルダム大聖堂保存修復公共事業体」となる予定だ。
理事は、半数が国の代表で残りは専門学識経験者、パリ市、カトリック関係者で、40人ほどの職員は、公務員と準公務員、民間人の混合となる。ほかに、理事長付の諮問機関としてパリのノートルダム大聖堂の保存と修復に関係する設計研究と作業のための科学評議会がある。
この事業体が、事業全体の舵取りをする。前出の法律によって環境法典や文化財法典、公物所有法典の例外としてこの事業体が主体となることが定められており、縦割り行政から逃れ、周辺地域の管轄であるパリ市や近隣商店、近隣住民との窓口も一本化される。
民間の寄付金も政府の補助金もすべてここに集約される。なお、寄付の窓口は火災直後から寄付金を受け付けていた財団で、そこを経由して事業体に払い込まれる。毎年報告書を出し、会計検査院の検査も受ける。こうして明朗会計を実現しようとしているのだ。
4月の火災直後、有名資産家などから寄付の申し出が殺到したが、6月には申し出のわずか9%しか払われていないとニュースになった。10月15日現在では、約9億2200万ユーロの寄付の約束のうち、すでに約1億400万ユーロ(約125億円)が送金されているということだ。ただし、資産家たちも口だけだったというわけではなく、5万ユーロ(約600万円)以上の大口寄付者は、再建の進捗によって5~7年間かけて分割払いするという協定を指定財団と結んでいる。この協定では、どこに使うかという指定もでき、原状復帰でない場合には支払わないことも可能だ。