文春オンラインの移動編集部企画・第2弾。今回は富山県魚津市を訪れています。地元の皆さんとお話をするなかで、ある興味深い情報が……。

「魚津には“蜃気楼”が好きすぎて、気象庁を辞めて魚津にきた人がいる」

「それから、蜃気楼の観測回数が飛躍的に伸びた」

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 その話題の人は、魚津埋没林博物館に勤めている学芸員の佐藤真樹さん(33)。実は、“ある募集”を見て、日本でただ一人の蜃気楼専門の学芸員となったそうです。

 富山湾に面した魚津市はさまざまな条件から蜃気楼出現の可能性が高く、古くは江戸時代以前から蜃気楼の名所として知られています。

 なぜ安定した公務員の地位を手放してまで蜃気楼にこだわるのか。魚津の“激レアさん”に、遠方からのたくさんのお客さんで賑わう話題のカフェ・KININALでお話を伺いました。

魚津埋没林博物館学芸員・佐藤真樹さん

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日本にはいなかった「蜃気楼」専門の学芸員が突如募集された

――街を巡っている中で「蜃気楼を好きすぎて魚津にやってきた学芸員がいる」というお話を聞きました。佐藤さんのことですよね?

佐藤 恥ずかしいですね。ちょうど2年前、この魚津埋没林博物館で「蜃気楼」の「調査・研究・教育普及活動」を専門にする学芸員を募集していたんです。見つけた瞬間に飛びつきました(笑)。見たこともない募集ですよね。

――「蜃気楼」専門の学芸員を募集するのは珍しいんですか?

佐藤 大きく「気象」という分野で蜃気楼を扱っている方はいますが、「蜃気楼」だけを専門にする方はいないんです。世界でも「蜃気楼」専門の研究をしている人で有名な人は20人いるかいないか……その程度ですね。

――そんなに! では、佐藤さんは日本における、蜃気楼研究の第一人者ということになりますね。

佐藤 おかげさまで1年前にこの魚津埋没林博物館の学芸員として、富山大学さんとも協力しながら色々とデータを取って「蜃気楼」の研究を続けています。今は何とか「蜃気楼」で博士号を取れないかと思っていて。

――博士ですか。

佐藤 これもまた「蜃気楼」で博士号を取った人が日本に誰もいないんです。なので蜃気楼で何が認めてもらえるかも手探り状態なんですが、切り口はないかなといつも探していますよ。

 

 100年以上あらゆる方法で試行錯誤されてきた蜃気楼の観測方法ですが、今はドローンやAIの機械学習を使ってできないか研究しています。と言っても、これはあくまでも蜃気楼研究の入り口の部分なので、新規性がないと博士論文としては難しいですけどね(笑)。

普段の景色が変わった形で見える現象「蜃気楼」

――今更ですが、蜃気楼とは一体どんな現象なのでしょうか。

佐藤 簡潔に言うと、光の屈折によって普段の景色が変わった形で見える現象です。富山湾の海面上で冷たい空気の層と暖かい空気の層が帯のようにできるときに出現します。

 よく物語にも言葉として登場するので、「いきなり竜宮城とかが見える」みたいな幻だと思っている人もいるんですが、あくまで元々見える風景が大きく変わって見えることを指します。さらにその変化にも違いがあるので、上位蜃気楼(上に伸びたり反転したりして見える)・下位蜃気楼(下に裏返しに見える)など場合分けをしています。

富山湾の対岸にある新湊大橋が“X”に見えた上位蜃気楼 佐藤さん提供
富山市街地の下位蜃気楼 佐藤さん提供