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 何気ない一言だったが、私はここに一種の自負が潜んでいる気がした。たしかにリチウムイオン電池は目に見えやすい成果である。しかし、目に見えにくく、わかりにくいけれども、実は我々の生活に役立っている製品を旭化成はいくつも作ってきたし、これからも作っていくんだ、というような自負である。

「私はどちらかというと“息子”なんでしょうね」

 吉野氏も、過去の成果にこだわることなく、未来を見据えて、リチウムイオン電池が切り拓く新たな電力システムについて熱く語った。

 インタビューの中で特に印象に残っているのは、共同受賞者であるジョン・グッドイナフ氏との関係について言及した次の件である。

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 吉野 (グッドイナフ氏は)面白いことに学生を呼ぶときは「ヘイ、ボーイ」ですが、私を呼ぶときは「ヘイ、ガイ」。ちゃんと区別している(笑)。学生は彼にとって“孫”みたいなものですが、私はどちらかというと“息子”なんでしょうね。私にとっても彼は父親のような存在です。彼の専門は固体物理、私の専門は化学。ディスカッションすると、面白いですよ。専門が違うせいか彼の方はデジタル型、私の方はアナログ型で、思考パターンが違うからです。

©文藝春秋

海外と日本の間で交わされた“キャッチボール”

 考え方の違いを楽しむ懐の深さが、吉野氏の強みだと思う。今回の受賞は、リチウムを最初に電池の材料に使ったスタンリー・ウィッティンガム氏、正極材料を開発したグッドイナフ氏、負極材料を開発した上、実用的なリチウムイオン電池を作りあげた吉野氏の成果がノーベル賞委員会に評価された。リチウムが野球のボールとすれば、グッドイナフはキャッチャー、吉野氏はピッチャーとなろうか。大学研究者と企業研究者、海外と日本の間で交わされたキャッチボールが一つの製品として結実したわけだ。

「(グッドイナフ氏と吉野氏の)お二人はまさにバッテリーですね」と言うと、吉野氏は笑って肯いた。

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出典:「文藝春秋」12月号

 科学ジャーナリスト、緑慎也さんによる吉野彰さんのインタビュー「京都から世界にET革命を」は「文藝春秋」12月号および「文藝春秋digital」に掲載されている。