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 嫌韓本、ヘイト本の黄金期、「保守業界ではまだ前座」というレベルの著者でも印刷部数で1万部前後は余裕だった。さすがに現在では6000部くらいにまで落ちているだろうが、新人作家など3000部通すのも至難、というこの出版大不況の時代に「嫌韓」「ヘイト」を旗印に6000部で通すのはやはり優遇である。この場合の収入計算式は以下の通り。四六判(ソフトカバーで最も定番の部類)で定価1300円の場合、通常印税率は10%なので、

 1,300円×0.1×10,000部=1,300,000円

 1冊出せば130万円の単純収入になる(税等は除く)。また、ヘイト本・嫌韓本の原価は極めて安くつくのも特徴だ。本を書いている著者自身が、取材などに一切行かない場合が多く、ネットで拾ったコピペや妄想で書いているから、原稿執筆にあたって経費がかからないのである。

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2016年、韓国・朴槿恵政権を追い込んだロウソクデモ。現地で取材した筆者

訪韓経験ゼロで韓国経済を語って「3000万」

 私など、韓国に一度も行ったことがないのに「韓国経済は崩壊する」という類の本を書いて20万部当てた自称経済評論家を知っている。韓国経済のことを一冊の本にするのに、一度も韓国に行かなくて良いのだから、取材費が全くかからない丸儲けである。実に羨ましい。この場合の推定収入計算式は以下の通り。

 1400円×0.1×200,000部=28,000,000(本体定価を1400円、印税を10%として)

 テキトーにネットで拾い読みした嫌韓情報を現地に行かずに書いただけで、一発当てれば約3,000万円の世界である。これが印税を8%に下げて推定したとしても約2,240万円。千葉や埼玉なら新築が買える。そう、嫌韓本で一山当たれば家が買えた時代があったのである。これをボロ儲けといわずして何というのだろうか?

 むろん、印刷部数20万部、という数字は、さらにますます出版不況の度を増している現在にあってはなかなか出ない数字ではある。しかし、3万部以上8万部未満、というクリティカルヒットならば、まだまだこのヘイト本や嫌韓本の世界では「ありうる」部数であり、要するにみんなこの一発を狙って、必死なのである。

 彼らは、一発当ててしまえば、次作、次次作は当然のこと、「売れる」企画に餓えた出版社から10冊くらいオファーが殺到するので、基本的には何年も食いっぱぐれがない。「愛国商売」とは本当に楽な稼業ときたものだ。実に羨ましい。

#2#3に続く)

愛国商売 (小学館文庫)

古谷 経衡

小学館

2019年11月6日 発売