ともかく気持ち良く笑える、屁理屈ドラマの稀にみる傑作といえばよいか。

 無職生活もすでに六年、今年で三十一歳になる岸辺満(生田斗真)を巡る家族ドラマでもある。父の死後は、一人で喫茶店を切り盛りする母の房枝(原田美枝子)の手伝いもせず、バイト仕事すらしない。

「お母さんはミツルに甘過ぎるのよ」。気の強い姉の秋葉綾子(小池栄子)が責めても、房枝は「あの子だって、いつか働く気になるわよ」と笑うだけ。

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 ミツルは挫折したコーヒー青年だ。好きが高じて、一流大学を中退して珈琲専門店を開くが、マニア度が高過ぎ、客に敬遠されて九か月で閉店。以来、ニート生活を続けている。

 綾子が高級米沢牛をすき焼き用にと持参し、ミツル親子宅を訪れる。丸の内でバリバリ働く姉は、いま住む家を新築する間の三か月、生家に夫と娘と同居させてと頼む算段だった。

 ミツルの屁理屈、炸裂だ。「最高級の肉をすき焼きっていうのが、あり得ない。肉の食べ方として間違ってますから」と姉の夫、光司(安田顕)に絡む。

「上質な素材は、余計なことしなくていいんです。美人が厚化粧してるの、見たことありますか?」「名古屋で一回だけ見たな」「どう思いました」「もったいない」「それと同じです」

日テレ本社 ©iStock.com

 姉にはさらに厳しい。俺はすき焼き大嫌いだぜ。姉ちゃんは相談するために来たのに、相手の好き嫌いを忘れてたって、ビジネスの世界じゃアウトでしょ。

「ニートの分際で、ビジネス語るんじゃねえよ!」

 中学三年の娘、春海(はるみ・清原果耶)が遅れて到着。肉問題を蒸し返すミツルを「すき焼きを肉に分類してる時点で浅いんだよね」とクールに切り捨てた。母ちゃんまで「お、いいぞ、いいぞ」と孫を応援する。

 春海によれば、すき焼きは、メインに見える肉が、実は裏方。肉の旨味を吸った豆腐とシラタキを食べる鍋料理だという。さすがのミツルも反論できない。

 腹いっぱい肉を食べた後で、ミツルが春海と並び自転車で送るシーンがいい。春海は十月から不登校が続いている。「学校ぐらい、我慢して行けよ」と優しく諭すミツル。「それと光司さんにも優しくしてやれよな」。光司は綾子の二番目の夫だ。「頭ではわかってんだけどね」。でも自然に振るまえない。光司もだ。

 水分控え目のサラッとした演出が効果的で、静かに感動を誘う。こうして三世代五人の共同生活がスタートする。生田斗真の長台詞に感心しながら爆笑し、原田美枝子の可愛さに心が和む。ミツルが挫折した珈琲青年なら、光司は挫折したベーシストだ。姉ちゃんも娘への負い目を抱える。

 けっこう重い家族劇を上質な笑いでコーティングした金子茂樹の脚本が光る。

INFORMATION

『俺の話は長い』
日本テレビ系 土 22:00~
https://www.ntv.co.jp/orebana/