その後は、様々な野菜を作った。頼りにしたのは「#1」で取り上げた区内の農家、白石好孝さん(65)らが家庭菜園での野菜の作り方をまとめた本だった。
トウモロコシを植え、畑の前で「庭先販売」をした。代金を入れてもらう缶を置いたが、2週間で2万円ぐらいしか入らなかった。
他の作物を試しても、年間10万円ほどしか売れなかった。
「これでは暮らしていけない」。虚しさが募った。
そしてトマトの水耕栽培を始めたが……
調べると、イチゴかトマトが高収益と分かった。
区内にはイチゴの栽培で有名な農家がいる。勉強かたがた働かせてもらった。だが、何万本もの苗を植えるのに、いちいちしゃがまなければならない。出荷時のパック詰めでも見映えに神経を使う。そうした苦労をしても、先行する農家には追いつけないと実感した。トマトしかないと腹をくくった。
7年前にハウスを建てて、トマトの水耕栽培を始めた。赤くなるまで熟して「庭先」に並べると、「甘くて美味しい」と話題になった。
だが、大玉のトマトは熟すまで待つと、表面積が大きいので気候によってはヒビ割れてしまう。収穫量の3分の1ほどを棄てなければならない年もあり、模索が続いた。
そこで埼玉県の農家に教えを請うと、中玉を勧められた。サイズが小さく
自販機の売り上げは全体の8〜9割を占める
そして自販機を導入すると、1袋300円のトマトが1日に130~180袋も売れるようになった。
現在、自販機の売り上げは全体の8~9割を占めるという。
こうして2年ほど前から収益が安定してきた山口さんだが、15年間の試行錯誤の末に得られたノウハウは、惜しみなく後輩に伝えている。そのため、山口さんに教わってハウストマトの栽培を始めた若手は1年目から収益を上げている。「午前8時に自販機に入れに行くと、既に行列ができているそうです。まず手渡しで売ってからでないと、自販機に入れられないほどの人気ぶりです」。山口さんは我が事のように喜ぶ。
来年、もう1人の後輩が独立する。山口さんは「仲間が増えてほしい。この辺りがトマトの産地になって、練馬大根のように注目されたら、イベントなどいろんな仕掛けができるはずです。各農家の切磋琢磨にもつながります」と夢を語る。