第1回の口頭弁論を受け、朝鮮日報も「韓日関係に一層の波紋を広げかねない歴史裁判」と指摘する。韓国の法曹関係者の間でも、「裁判所は事前に慎重に検討すべきだった」という指摘が出ている。原告勝訴の判決が出されれば、徴用工問題以上の日韓関係の悪化が避けられない。しかも、被告(日本政府)が出てこないことが分かっていながら裁判所が審理開始を認めたことは“見切り発車”というわけだ。
韓国国民の間では、すでに「このまま行けば原告勝訴の可能性が高い」という見方が優勢だ。広がる一方の国民側の期待が韓国の司法当局や政府を悩ませている。だが、時すでに遅し。口頭弁論がスタートしたことにより、その厄介な裁判は動き出してしまったのだ。
日本統治時代の話は何でも訴訟可能に?
では、当のソウル中央裁判所はどのような姿勢なのか。
ソウル中央地裁は、日本政府に訴訟の中で意見を主張することが望ましいとして出席を求める一方、原告側にも、訴訟を主権免除の適用外だと主張するのなら「説得力ある(立証)方法」を出す必要があると伝達。この裁判で、主権免除の適用の是非を判断する姿勢を示している。
原告側は、地裁が求めた「主権免除の適用外だと主張できうる説得力ある立証方法」について、日韓の法学者や、元慰安婦の証言を研究した専門家を証人として申請する構えという。
原告側の狙いはあくまでも、「日本の反人権的犯罪を司法が公式に確認し、国内・国際法上の日本の責任を明確にする」(代理人弁護士)ことにある。「主権免除の法則」についても、「反人道的な犯罪行為には適用すべきでない」と主張し、日本政府を法廷に引きずり出そうとしている。原告の弁護士は「重大な人権侵害への国家免除を認めた国際慣習法は、憲法的価値を損なうとした国際判例がある」と、「判例」を示す構えだ。
このように裁判の最大の争点は「主権免除」を認めるか否かになっている。万が一、「主権免除」の適用外であるとの司法判断が出たとしたら、慰安婦問題だけでなく、日本による朝鮮半島統治時代のことなら何でも日本政府を訴えられることになりかねない。
被告が民間企業だった徴用工訴訟の韓国最高裁判決とは比べものにならないほどの日韓関係の深刻な問題となる。文在寅政権は「三権分立の原則」を掲げ「司法判断を尊重する」との立場だ。慰安婦訴訟でも基本姿勢は変えられないだろう。
韓国は収拾不能な論争に、日本を再び巻き込もうとしている。
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