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 母と真紀さん、それに弟の暮らしは、まもなく離婚した妹が加わって4人となる。こたつで鍋を囲んだり、そろって花見に出かけたり、当初は和やかな時間もあった。

母の衰えとともに、互いの不満は高まるばかり

 だが、母の衰えと比例するように一家の状況は悪化する。医療や介護にはお金も時間も労力も必要で、誰かがそれを負わなければならない。3人の子どもで3分の1ずつ分けられるという話でもなく、互いの不満は高まる一方だ。

 仕事で疲れた弟が、働かない妹に怒りをぶつける。自己嫌悪に陥る妹は、何かと過去を蒸し返して母に八つ当たりする。弟の機嫌を取り、妹を気遣う真紀さんに、今度は母が嫌味を言う。「苦労して育てたって、なんにもいいことありゃしない」「あんたは女なんだから、どっかの金持ちの年寄りでも捕まえればいいのに」と。

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「母の言い草にはすごく腹が立つんです。だけど、今の暮らしとか、この先のことを考えると……」、言い淀む真紀さんの胸中は切実だ。

「私には子どももお金もない」

 2ヵ月に一度、母の年金支給日に束の間安堵しても、すぐに大きな不安が押し寄せる。母の介護度が上がれば自分の心身が危ういし、今でさえギリギリの暮らしは立ち行かなくなるだろう。母が亡くなって年金が途絶えたら、いったいどんな転落が待っているのか。それこそ「金持ちの年寄り」でも捕まえて破綻を免れたいと、下世話な考えさえ浮かぶのだ。

「あと10年もすれば自分が高齢者の仲間入り。でも、母と違って私には子どももお金もありません。昔、毒親だった人が子どもに世話されて、なのに子どものほうは全然報われない。これが現実かと思うと、生きる希望なんてないですね」

未婚で貧困だと無届けホームにすら入れない?

 真紀さんは虚しさを滲ませて薄く笑う。彼女のような状況で高齢期を迎える人たちについて、前出の結城教授はこう懸念する。

「親が亡くなれば子世代は貧困に陥り、自分の老後は真っ暗になるでしょうね。人口減少で労働力や税収が低下しますから、現行の社会保障制度は行き詰まる。一方で未婚率はさらに上昇するので家族による介護も期待できない。将来的に未婚で貧困の人は無届け老人ホームに押し込まれるか、それさえむずかしくなるかもしれません」

©iStock.com

 2025年には総人口の3人に1人が65歳以上の高齢者、5人に1人が75歳以上の後期高齢者となる。50歳まで一度も結婚しない人の割合を示す生涯未婚率の推計は、男性27.4%、女性18.9%だ。

 真紀さんの苦悩は個人的なものだろうか。重荷であり、保障でもある親を失ったとき、果たしてどんな暮らしが待っているのだろうか。

※ケース4は11月22日公開です。

毒親介護 (文春新書)

石川 結貴

文藝春秋

2019年11月20日 発売