ひきこもり期間の生活
「外に出るのは、病院への通院と食料品や日用品をスーパーに買いに行くときくらい。このころにはひとり暮らしをしていましたが、ずっと家にいる生活でした。
当時は不眠症だったので、長時間きちんと眠ることができず、ちょっと寝ては起き、ちょっと寝ては起きという感じで。それでも、朝には起きるようにしていたのですが、睡眠が足りていないので、補うために昼寝をして……というふうな生活サイクルでした」
ひきこもりというと、完全に人間関係や社会関係を絶っているかのように捉えられがちだが、それも誤解であることがわかる。香取さんは外に出ることもできるし、ひとり暮らしも可能な状態であった。自宅で誰かと交流することもなく、孤立している中高年ひきこもりの一例だ。ひきこもり当事者には同居家族がいて家族が面倒を見ている、というのも一面的な見方に過ぎない。
香取さんには精神疾患が背景にあるため、自宅で精神科に通いながら療養生活をしている。この時期にひきこもりと呼ばれる状態に陥っていたことも興味深いだろう。精神障害や精神疾患を有する人々に対する社会的なケアの必要性まで浮かび上がってくる。
「助けて!」というサインを出したか?
「お医者さんには自分の状態を伝えてましたが、理解がなく、言葉には出さないものの『甘ったれるな』という対応でした。
親は、まだ私が30歳くらいだったころは、多少はつきあいがありました。そもそも支配的な親なので頻繁に電話をかけてきたり、家まで来ることもありました。そんな親だから、時には病院までついてくるのですが、私を虐待していたことを認めていないので、お医者さんの前ではそんな素振りも見せない。外面がいいので、傍目にはとても子どもを虐待する親には見えない。むしろ、上品でやさしそうに見えていたと思います。
親は、私の病気や、場面緘黙症であることには理解がなかった。私が小学生のころからよく言われていたのは、『いい学校に入って、大手企業に入って、そこにお勤めの男性と結婚しなさい』ということ。こういう価値観の親なんです。“エリート”っていうんですか? そういう人たちの行いだけが正しい、という考えなんです」